はじめに
商品やサービスを販売するに当たっては、広告や宣伝を行ったり、ノベルティやプレゼントを提供したり、様々な活動を行いますよね。
しかし、このような広告やおまけ等には、景品表示法による規制が及びえます。
例えば、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽ったり、おまけが高額に過ぎたりして、景品表示法に違反することがあります。
また、期間限定キャンペーンを延長したり繰り返したり、「通常価格○○円のところ、□□円!」とセールを行ったりする場合にも、景品表示法に違反することがあります。
そして、景品表示法に違反する行為が認められた場合は、違反行為を取りやめること、景品表示法に違反することを一般消費者に周知徹底すること、再発防止措置を講じること等を命じる措置命令が行われます。
また、課徴金納付命令が行われる場合もあります。
そして、このような重い負担に加え、会社の信用も損なわれるおそれがあります。
そこで、広告や宣伝、おまけ等を行うに当たっては、事前に景品表示法に違反しないか、専門家にご相談なさることをお勧めします。。
私も、数多くの広告やキャンペーンを企業内弁護士として、また社外弁護士としても審査し、また、担当者と一緒に、景品表示法に反しないよう修正案を検討してきました。
この記事では、このような景品表示法の規制の概要について、解説していきます。
景品表示法とは?
景品表示法は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」という法律です。
そして、景品表示法の目的は、「不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護すること」(景品表示法1条)にあります。
簡単に言えば、嘘や大げさな表示、過大な景品類の提供を禁止して、消費者がより良い商品・サービスを自主的、合理的に選べるようにする、という法律です。
この景品表示法の規制は、大きく分けて、「不当表示の禁止」(表示規制)と「景品類の制限及び禁止」(景品規制)の2つからなっています。
不当表示の禁止(表示規制)
概要
不当表示の禁止(表示規制)は、わかりやすく言うと、うその広告や誇大広告等、消費者をだますような表示を禁止するものです。
広告や表示の媒体としては、例えば、次のものを挙げることができますが、これらに限られません。
- ホームページ、LP(ランディングページ)
- 検索サービス、他者のホームページ等の広告枠
- バナー広告
- アプリ内広告
- 動画広告
- 電子メール広告
- 口頭や電話でのセールストーク
- チラシ、パンフレット
- DM(ダイレクトメール)
- 容器、パッケージ、ラベル
- ディスプレイ
- 新聞広告、雑誌広告
- テレビ、ラジオCM
- ポスター、看板 等
そして、不当表示の類型として、「優良誤認表示」「有利誤認表示」「商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する表示」の、3つの類型があります(景品表示法5条各号)。
優良誤認表示の禁止
優良誤認表示とは?
景品表示法は、次の表示を優良誤認表示として、禁止しています(景品表示法5条1号)。
- 商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示
- 商品・サービスの品質、規格その他の内容について、事実に相違して競争事業者のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示
わかりやすく言いますと、実際よりも品質を良く思わせる表示のことです。
「当社は○○No1」等のナンバーワン、「□□は当社だけ」等のオンリーワンをうたう表示も、優良誤認表示か否か(内容によっては、次の有利誤認表示)が問題となってきます。
ここで、「著しく」とは、誇張や誇大の程度が、社会一般に許容されている程度を超えていることをいいます。その誤認がなければ顧客が誘引されることが通常ないであろうと認められる程度に達する誇大表示かどうか?が判断のポイントなります。
優良誤認表示として、例えば、次のようなものを挙げることができます。
- お肉のブランドを偽る表示
- 実際は外国産なのに、国産であると表示
- 実際は人工石のアクセサリーなのに、天然石であると表示
- 他社とは異なる方法で数値化しており適正な比較でないのに、「当社は○○実績No1」と表示
なお、わざと偽って表示する場合だけでなく、ミスによって表示してしまった場合であっても、優良誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので、十分な注意が必要です。
不実証広告規制
消費者庁長官は、優良誤認表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、事業者に対し、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます(提出期限:原則として15日。景品表示法施行規則7条2項)。
そして、事業者が、これを期間内に提出しない場合や、提出された資料が合理的な根拠を示すものと認められない場合、問題となった表示は、措置命令との関係では不当表示とみなされます。また、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されます(景品表示法7条2項、8条3項)。
例えば、ダイエット効果があるように表示していたものの、その裏付けとなる合理的なデータがなかったような場合を挙げることができます。
このような制度がありますので、事業者にとって、広告等の表示を行う前に合理的な根拠を示す資料を確保しておかないと大きなリスクになり得るので、十分な注意が必要です。
有利誤認表示の禁止
有利誤認表示とは?
景品表示法は、次の表示を有利誤認表示として、禁止しています(景品表示法5条2号)。
- 商品・サービスの価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
- 商品・サービスの価格その他の取引条件について、競争事業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
わかりやすく言いますと、実際よりお値段等がお得だと表示することです。
有利誤認表示として、例えば、次のようなものを挙げることができます。
- 実際は50%割引とは認められない代金の額なのに、基本価格を記載せず「今なら50%OFF」と表示
- 実際は価格調査をしておらず根拠もないのに、「市内で一番安い店」と表示
なお、わざと偽って表示する場合だけでなく、ミスによって表示してしまった場合であっても、有利誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので、十分な注意が必要です。
不当な二重価格表示の禁止
有利誤認表示の一種として、不当な二重価格表示の禁止が禁止されます。
二重価格表示とは?
二重価格表示とは、販売価格とともに、より高い比較対象価格を表示することをいいます。
そして、
次のような二重価格表示は、有利誤認表示に該当し不当な二重価格表示とされるおそれがあります。
- 同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
- 比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
例えば、「通常価格5000円のところ、2980円」と表示したが、通常価格5000円で売ったことがないような場合等がこれに該当します。
不当な二重価格表示の判断基準
不当な二重価格表示に該当するかの判断基準は、次に掲げる類型ごとに異なっており、複雑です。
- 過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
- 将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
- 希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示
- 競争事業者の販売価格を価格対照価格とする二重価格表示
- 他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
例えば、「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」の場合、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」かどうかが判断のメルクマールになります。
- 比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」→不当な二重価格表示に該当しない
- 比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格→いつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等を正確に表示しない限り、不当な二重価格表示に該当するおそれ
そして、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かは、比較対象価格が、セール開始時点からさかのぼる8週間の過半を占めているかどうかにより判断するのが原則ですが、例外もあり、判断枠組みが複雑です。
このように不当な二重価格表示該当性の判断は複雑であり、違法な表示をしてしまうリスクが大きいので、専門家にご相談なさることをお勧めします。
期間限定キャンペーンの延長、繰り返しについて
期間限定キャンペーンを行った場合、お客様からの反響が大きかったり、商品・サービスの認知度をもっと向上させたいと考えたりして、当該キャンペーンの期間を延長したり、繰り返したりしたいときがありますよね。
しかし、キャンペーン期間の表示は一般消費者の商品選択に資する重要な要素です。
そして、事業者の都合でキャンペーンの期間を変更したりする場合、有利誤認表示に該当するおそれがあります。
したがいまして、キャンペーン期間についても、表示を工夫したりキャンペーン内容を工夫したりする等して、景品表示法に違反しないように対策を講じる必要があります。
これについても、専門家に相談しながら、対策を講じることをお勧めします。
打消し表示について
一般消費者に対して、商品・サービスの内容や取引条件について訴求する表示(強調表示)をする場合があります。
例えば「保障が、一生涯続いて安心!」等と打ち出したりして、お客様に、商品・サービスのメリットをしっかり伝えたいですよね。
しかし、強調表示は、それだけですと、無条件、無制約に当てはまるものと一般消費者に受け止められてしまいます。
そこで、例えば「医療行為や適応症等によっては、給付対象とならないことがあります。」等、例外があるときはその旨の表示(打消し表示)を分かりやすく適切に行わなければ、一般消費者の誤認を招き、景品表示法上問題となるおそれがあります。
そして、景品表示法上問題となる事例としては、次のものを挙げることができますが、これらに限られません。
- 一般消費者が打消し表示を見落としてしまうほど文字が小さい場合
- 強調表示が大きな文字で表示されているのに対して、打消し表示が小さな文字で表示されており、強調表示を見た一般消費者が当該強調表示に対する打消し表示に気付くことができないような場合
- 打消し表示が強調表示から離れた場所に表示されており、一般消費者が打消し表示に気付かなかったり、打消し表示に気付いたとしても、当該打消し表示が、離れた場所に表示された強調表示に対する打消し表示であることを認識できないような場合
- 背景に複数の色彩が入り組んでおり、打消し表示の文字と背景との区別がつきにくいような場合
したがいまして、打消し表示を行う場合には、景品表示法上問題とならないかを確認する必要があります。
そして、判断が微妙な場合には、専門家に相談なさることをお勧めします。
商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する表示
具体的には、次の告示により指定された表示が、禁止されています。
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
景品類の制限及び禁止(景品規制)
概要
景品表示法は、過大な景品類の提供を禁止しています(景品表示法4条等)。
景品規制も、複雑な規制となっており景品表示法に違反してしまうリスクが高いので、キャンペーンを企画する際には、専門家にご相談なさることをお勧めします。
なお、①新聞業、②雑誌業、③不動産業、④医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業の各業種については告示が制定され、各業界において提供される景品類に制限が課されているので、ご注意ください。
景品類とは?
まず、消費者に提供するものが「景品類」に該当する場合、景品表示法の規制が及びます。
ここで、「景品類」の定義は、原則として、次のとおりです。3つの要件からなっています。
- 顧客を誘因するための手段として
- 自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
- 物やお金等の経済上の利益
そして、景品規制は、「一般懸賞」「共同懸賞」「総付景品」の、3つの類型からなります。
一般懸賞による景品類の提供制限
一般懸賞とは?
まず、「懸賞」とは、次に掲げる方法によって、景品類の提供の相手方や提供する景品類の価額を定めることをいいます。そして、「共同懸賞」以外の懸賞のことを、「一般懸賞」といいます。
- くじその他偶然性を利用して定める方法
- 特定の行為の優劣や正誤によって定める方法
例えば、次のようなものが懸賞に該当します。
- 抽せん券を用いる方法
- レシート、商品の容器包装等を抽せん券として用いる方法
- 商品のうち、一部のものにのみ景品類を添付し、購入の際には相手方がいずれに添付されているかを判別できないようにしておく方法
- すべての商品に景品類を添付するが、その価額に差等があり、購入の際には相手方がその価額を判別できないようにしておく方法
- いわゆる宝探し、じゃんけん等による方法
- 応募の際一般に明らかでない事項(例 その年の十大ニュース)について予想を募集し、その回答の優劣又は正誤によって定める方法
- キャッチフレーズ、写真、商品の改良の工夫等を募集し、その優劣によつて定める方法
- パズル、クイズ等の解答を募集し、その正誤によって定める方法
- ボーリング、魚釣り、○○コンテストその他の競技、演技又は遊技等の優劣によって定める方法(ただし、セールスコンテスト、陳列コンテスト等は含まれません。)
一般懸賞における景品類の限度額
一般懸賞における景品類の限度額は、次のとおりです。
懸賞による取引価額 | 最高額 | 総額 |
---|---|---|
5,000円未満 | 取引価額の20倍 | 懸賞に係る売上予定総額の2% |
5,000円以上 | 10万円 | 懸賞に係る売上予定総額の2% |
共同懸賞による景品類の提供制限
共同懸賞とは?
「共同懸賞」とは、次のように、複数の事業者が共同して行う懸賞をいいます。
- 一定の地域の小売業者・サービス業者の相当多数が共同して行う場合
- 一の商店街(これに準ずるショッピングビル等を含む。)の小売業者・サービス業者の相当多数が共同して行う場合(ただし、中元、年末等の時期において、年3回を限度とし、年間通算して70日の期間内で行う場合に限定)
- 一定の地域の同業者の相当多数が共同して行う場合
共同懸賞における景品類の限度額
共同懸賞における景品類の限度額は、次のとおりです。共同で行うため、一般懸賞よりも限度額が高いですね。
最高額 | 総額 |
---|---|
取引価額にかかわらず30万円 | 懸賞に係る売上予定総額の3% |
総付景品の提供制限
総付景品とは?
一般消費者に対して懸賞によらないで提供する景品類は、「総付景品」と呼ばれています。「ベタ付け景品」等と呼ばれることもあります。
例えば、次のような場合が該当します。
- 購入者全員に提供する場合
- 来店者全員に提供する場合
- 先着順で提供する場合
総付景品の限度額
総付景品の限度額は、原則として、次のとおりです。
取引価額 | 景品類の最高額 |
---|---|
1,000円未満 | 200円 |
1,000円以上 | 取引価額の10分の2 |
この「取引価額」の算定ルールは、購入者を対象とし購入額に応じて景品類を提供する場合等、場面に応じて、ガイドラインで複雑に定められています。
他方、ガイドラインに定められていない場合もあります(例えば、アプリ内課金のあるアプリのユーザー登録をした人全員にプレゼントをする場合。まだ取引を行っていないが「取引価額」をどう考えるべきか?等)。
したがいまして、企画段階で、「取引価額」の判断について、専門家に確認することをお勧めします。
コンプガチャについて
コンプガチャとは?
一般に「コンプガチャ」は、ゲーム内において、いわゆる「ガチャ」によって、例えば、特定の数種類のアイテム等を全部そろえると、別のアイテム等(レアアイテム等)を新たに入手できるという仕組み等をいいます。
カード合わせとは?
この点、景品表示法をを受けた告示「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」は、いわゆる「カード合わせ」の方法を用いた懸賞による景品類の提供を全面的に禁止しています。
ここで、「カード合わせ」とは、次のものをいいます。「絵合わせ」「字合わせ」等といわれることもあります。
例えば、お菓子の袋の中に様々なイラストのカードを1枚入れて販売し(消費者からは何のイラストかわからない状態とします。)、特定の2以上の異なるイラストのカードをそろえた人にプレゼントを行う場合が、これに該当します。
そして、「カード合わせ」は、当選率に関して錯覚が生じうることや射幸心をあおる程度が著しく強いこと等から、禁止されています。
コンプガチャと「カード合わせ」該当性
したがいまして、例えば、ゲーム内において、ユーザーに対し、アイテム等を、有料ガチャにより提供し、特定の2以上の異なる種類のアイテム等をそろえたユーザーに対し、ゲームアイテム等の経済上の利益を提供する場合には、「カード合わせ」として景品表示法上問題となります。
ですので、アプリゲームを開発する際には、「カード合わせ」にならないよう注意する必要があります。
事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置
上記の不当表示の禁止(表示規制)と景品類の制限及び禁止(景品規制)のほか、景品表示法上、事業者は、景品類の提供に関する事項と、商品・サービスの品質、規格その他の内容に係る表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならないとされています(景品表示法26条)。
具体的には、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」により、次の7つの措置が求められています。
- 景品表示法の考え方の周知・啓発
- 法令遵守の方針等の明確化
- 表示等に関する情報の確認
- 表示等に関する情報の共有
- 表示等を管理するための担当者等を定めること
- 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
- 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
したがいまして、このようなコンプライアンス体制の整備等を、専門家のアドバイスを受けながら行っていくことが望まれます。
まとめ
以上のとおり、景品表示法により、不当表示の禁止(表示規制)と景品類の制限及び禁止(景品規制)という複雑なルールが定められています。
そして、複雑で、場合によってミスをしやすい、これらのルールを適正かつ正確に遵守していくため、広告や宣伝、おまけ等のキャンペーンを行うに当たっては、事前に景品表示法に違反しないか、専門家にご相談なさることをお勧めします。
弊所では、景品表示法に関する豊富な実務経験と実績を有する弁護士が、個別のご相談に応じ、また社内の広告審査体制整備の支援を行っています。