独占禁止法とは?経営者に向けて元・企業内弁護士が事例とともにわかりやすく解説

目次

はじめに

以前のことです。職場の方とお酒を飲んだ後、一蘭さんでラーメンを食べて帰るというのが定番でした。一蘭さんのラーメンが好きだったことはもちろんなのですが、その店舗は閉店時間が早めだったことから、終電を逃すことなくゆとりを持って帰宅することができるようになるという点も良かったのです。

さて、その一蘭さんが、カップ麺などの自社商品について、希望小売価格で販売するよう小売店に強制し独占禁止法(再販売価格の拘束)に反している疑いがあるとして、公正取引委員会が調査しているとの報道がありました(時事ドットコムニュース「『一蘭』独禁法違反か カップ麺など価格拘束疑い―公取委」)。

「独占禁止法ね。耳にはするけど、よく知らないんだよね。」という方も多いかもしれません。

しかし、独占禁止法(正式名称「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)は、会社法や金融商品取引法と同様、企業の根幹を揺るがしかねない法律です。

というのも、独占禁止法は、自由市場経済の基本ルールを定めた法律で、会社法や金融商品取引法と同様、企業が従うべき基本的な法律です。

また、独占禁止法に関するニュースも頻繁に報道されていますよね。

このように、独占禁止法は「自分たちの企業活動のすぐ横で規制を行っている法律」といえます。

私も、企業内弁護士をしていたころ、「おや、この営業担当者の行為はセーフかな?」と、しばしば独占禁止法を確認したものです。

そして、独占禁止法違反に対するペナルティは大変重いです。

公正取引委員会による排除措置命令により、違反行為の取りやめ、再び行うことの禁止、実効的な再発防止体制の整備等を命じられることがあります。
再発防止体制の整備は、負担にもなりますし大変ですよね。

また、公正取引委員会による課徴金納付命令により、高額の金銭的負担が生じることもあります。

参考までに、近年の一事業者当たりの課徴金額は、次の表のとおりです(公正取引委員会「(令和3年5月26日)令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」から作成)。

平成28年度 平成29年度 平成30年度 令和元年度 令和2年度
2億8571万円 5912万円 1450万円 18億7231万円 10億8230万円

さらに、罰則、民事上の差止請求訴訟、無過失損害賠償請求訴訟等の対象ともなりえます。

そして、社会的な非難、信用・レピュテーションの毀損といった不利益を受ける可能性や、入札談合等であれば指名停止や違約金の支払いといった制裁を受ける可能性もあります。

また、近年では、中小企業でも独占禁止法違反で摘発される事例が出てきています。

ですので、「うちのような中小企業は、独占禁止法と関係ない。」と思って、独占禁止法違反防止のための社内体制を整備しないでいたところ、
独占禁止法違反(カルテルなど)が発生してしまい、事前防止のためのコストを大きく上回る事後対応コストを支払うこととなる、ということもありえます。

さらに、スタートアップや中小企業も、独占禁止法に違反する他社の行為から身を守るために、独占禁止法を知っておくべきと考えられます。

例えば、公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」では、スタートアップが身を守るために知っておきたい、独占禁止法上の考え方や問題となり得る事例等が解説されています。

参考に一部抜粋すると、次のような内容です。スタートアップが身を守るためにはもちろん、連携事業者や出資者が独占禁止法に違反しないためにも、参考になる資料だと思われます。

①独占禁止法上の考え方
正当な理由がないのに、NDAを締結しないままスタートアップの営業秘密が開示された場合には、当該営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがある。
取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、営業秘密が事業連携において提供されるべき必要不可欠なものであって、その対価がスタートアップへの当該営業秘密に係る支払以外の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、取引の相手方であるスタートアップに対し、NDAを締結しないまま営業秘密の無償開示等を要請する場合であって、当該スタートアップが、事業連携が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。
【優越的地位の濫用として問題となり得る事例】
(事例1)
A社は、NDAを締結したかったが、連携事業者から「そのうち契約するから、情報を開示してほしい」と言われ、NDAを交わさないままプログラムのソースコード等を開示させられた。その後、取引が中断し、連携事業者がA社のソースコードを使った類似サービスの提供を発表した。
(事例2)
B社は、連携事業者に対し、ウェブサービスのノウハウそのものであるソースコードを全て提供するのは無理だと伝えたが、連携事業者から、ソースコードを全て提供しないのであれば、今後の取引に影響を与えるなどと示唆されたため、NDAを締結しないままソースコードを全て提供させられた。
①独占禁止法上の考え方
株式の買取請求権は、出資者がその行使の可能性をスタートアップに示唆するなどして交渉を優位に進めることを可能とする点で、出資者のスタートアップに対する取引上の地位を高める可能性がある。
取引上の地位がスタートアップに優越している出資者が、知的財産権が出資契約において出資者に帰属することとなっており、その対価がスタートアップへの当該知的財産権に係る支払以外の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、取引の相手方であるスタートアップに対し、知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を行う場合であって、当該スタートアップが、当該出資者の保有株式の全部の買取りを請求されるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。
【優越的地位の濫用として問題となり得る事例】
(事例48)
v社は、事業を順調に進めており、出資者と定めた事業計画上の目標を達成していたにもかかわらず、出資者から、知的財産権を無償で譲渡するように求められ、それに応じない場合には株式の買取請求権を行使すると示唆されたため、その知的財産権を譲渡した。

そこで、この記事では、経営者、経営幹部にとって理解しておくことが必須の独占禁止法について、その規制をわかりやすく解説します。

なお、独占禁止法が禁止する行為類型は抽象的な文言で規定されているものが多いこと等から、実際には独占禁止法違反の有無の判断は困難な場合が少なくありませんので注意が必要です。ですので、専門家に相談しサポートを受けながら、会社としての対応を行っていくことをお勧めします。

弊所では、企業内弁護士として、独占禁止法違反の防止・是正のための社内体制整備に関する実務経験と実績を有する弁護士が、個別のご相談に応じ、また社内体制整備の支援を行っています。

独占禁止法の目的

市場の競争のメカニズムが有効に機能していれば、事業者は、創意工夫し、より良いものをより安く提供して売上を伸ばそうとします。

これにより、消費者も、自分のニーズにより良く合致した商品・サービスを選択することができ、より多くの便益を得ることができます。これは、消費者の利益になりますね。

しかし、競争が妨げられ独占が生じると、

  • 生産量が減少して価格がつり上がり、
  • 企業の利潤は上昇するものの消費者余剰(市場取引から得る消費者の便益を金額で表したもの)は減少し(分配の不平等化)、
  • 利潤の上昇より消費者の損害の方が必ず大きく社会全体のパイが小さくなる(配分の非効率性)

ことは、ミクロ経済学が教えるところです。

そこで、競争の機能を妨げる行為を禁止しよう、というのが独占禁止法の目的です。

独占禁止法1条は、公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨を定めています。

規制の全体像

独占禁止法の規制内容は、次のとおりです。

  • 私的独占の禁止
  • 不当な取引制限(カルテル)の禁止
  • 事業者団体規制
  • 企業結合規制
  • 独占的状態の規制
  • 不公正な取引方法の禁止

このうち、私的独占、不当な取引制限(カルテル)、不公正な取引方法の禁止は、独占禁止法の三本の柱などと呼ばれることがあります。また、これらに、企業結合規制を加えて、四本の柱などと呼ばれることがあります。

なお、この記事では、独占的状態の規制については、発動要件が厳しく適用事例もないことから、省略します。

不当な取引制限(カルテル)の禁止

概要

事業者たちが、価格カルテルや入札談合などのカルテルを行い、競争することを回避してしまうと、物やサービスの価格が上がってしまいます。

そうすると、消費者・納税者の犠牲において、非効率的な企業が温存されることになり、弊害が大きいです。

そこで、独占禁止法は、「不公正な取引制限」の禁止制度(独占禁止法2条6項、3条)を設け、カルテルを規制しています。

「不当な取引制限」とは?

「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法2条6項)。

したがって、

  1. 事業者が
  2. 他の事業者と共同して
  3. 相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより
  4. 公共の利益に反して
  5. 一定の取引分野における競争を実質的に制限する

場合は、「不当な取引制限」に該当することになります。

ここで、「競争の実質的制限」とは、「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによつて、市場を支配することができる状態をもたらすこと」をいいます(東京高判昭和26年9月19日東宝・スバル事件、東京高判昭和28年12月7日東宝・新東宝事件)。

わかりやすく表現すると、自分たちで市場全体の価格・品質・数量などを左右することができる状態だということですね。

カルテルの例

不当な取引制限の対象となるカルテルには、様々なものが含まれます。

そこで、カルテルの例を、ハードコア・カルテル(競争の実質的制限のみを目的とするカルテル)と、それ以外の非ハードコア・カルテルに分けて紹介します。

ハードコア・カルテルの例

ハードコア・カルテルの例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 価格カルテル
  • 数量制限カルテル
  • 取引先制限カルテル、市場分割カルテル
  • シェア配分カルテル
  • 入札談合、受注調整カルテル

ハードコア・カルテルは、直ちに競争の実質的制限を認定できる場合が多いと言われています。

非ハードコア・カルテルの例

非ハードコア・カルテルには、業務提携、合弁会社・ジョイントベンチャー、環境基準等といった自主規制等、多様なものが含まれています。

  • 共同研究開発
  • 規格化・標準化
  • 生産、販売、物流、購入の共同化
  • 競合からのOEM供給
  • 情報交換
  • 環境基準、リサイクル、安全性基準等の社会公共目的での共同化

これらは、効率化により競争を促進する効果等が期待される一方、価格、生産量、事業分野について調整がなされるおそれ、共同事業に参加することが企業活動に不可欠な状況になっているときに第三者が不当に利用拒否されるおそれなどもあります。

そこで、非ハードコア・カルテルは、ハードコア・カルテルと比較して、競争の実質的制限についてより慎重な判断が求められます。

不当な取引制限の禁止に係る違反事例

【公取委令和4年2月25日】
警備会社(7社)が、国,地方公共団体等が発注する特定機械警備業務について、受注価格の低落防止等を図るため、
・施設ごとに既存業者を受注すべき者(受注予定者)とし、
・受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるように協力する
旨の合意の下に、
・受注予定者が提示する入札価格などは受注予定者が定め、
・受注予定者以外の者は受注予定者が連絡した価格以上の入札価格等を提示するなどにより、
受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにしていた行為が、
公共の利益に反して特定機械警備業務の取引分野における競争を実質的に制限し、不当な取引制限の禁止に反するとされた(6社に排除措置命令、4社に課徴金納付命令)。
【公取委命令令和2年7月1日】
A高校の制服の販売業者(数社)が、かねてから、同校の制服の販売価格について情報交換を行っていたところ、同校の制服の販売価格を共同して引き上げる旨の合意の下に、同校の制服の仕入価格の上昇が見込まれる場合等には、会合を開催するなどの方法により、同校の制服の販売価格を決定するなどしていた行為が、
公共の利益に反して、同校の制服の販売分野における競争を実質的に制限し、不当な取引制限の禁止に反するとされた(違反事業者数は延べ17社(実数4社)、延べ12社(実数3社)に排除措置命令)。
【公取委命令令和2年6月11日】
特定警察官用制服類の入札等の参加業者(5社)が、特定警察官用制服類について,受注価格の引上げ及び低落防止を図るため、
・受注すべき者(受注予定者)を決定し、
・受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する
旨の合意の下に、
・B県から参考見積価格の提示依頼があった際に、過去の受注実績等を勘案して、受注予定者を決定し、
・予定価格が前年度の落札金額より高くなるよう、受注予定者が提示する参考見積価格は受注予定者が定め、受注予定者以外の者は受注予定者が連絡した参考見積価格を提示し、
・受注予定者が提示する入札価格または見積価格は受注予定者が定め、受注予定者以外の者は受注予定者が連絡した入札価格または見積価格を提示するなどにより、
受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにしていた行為が、
公共の利益に反して,特定警察官用制服類の取引分野における競争を実質的に制限し、不当な取引制限の禁止に反するとされた(3社に排除措置命令、1社に課徴金納付命令)。
【独占禁止法に関する相談事例集(平成19年度)】
市、住民団体、小売事業者が、市内での商品販売に際し、レジ袋の提供を有料化すること、レジ袋の単価を1枚5円とすることを内容とする協定を締結することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない旨、公正取引委員会が回答した。

私的独占の禁止

概要

カルテル以外にも、競合他社を排除したり、川上市場や川下市場で競争を止めさせたりプレイヤーを排除させたりすることにより、競争を停止したり排除することが行われてしまうことがあります。

そこで、独占禁止法は、排除や支配といった人為的な行為により競争の実質的制限がなされることがないよう、「私的独占」の禁止制度を設けています(独占禁止法2条5項、3条)。

「私的独占」とは?

「私的独占」とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法2条5項)。

したがって、

  1. 事業者が、
  2. 他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、
  3. 公共の利益に反して、
  4. 一定の取引分野における競争を実質的に制限する

場合は、「私的独占」に該当することになります。

ここで、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成・維持・強化することをいうものと解釈されています(東京高判平成21年5月29日NTT東日本事件)。

不当な取引制限と同様、わかりやすく表現すると、自分たちで市場全体の価格・品質・数量などを左右することができる状態だということですね。

私的独占の類型、違反事例等

「私的独占」は、排除行為により行われる排除型私的独占、支配行為により行われる支配型私的独占に分けることができます。

排除型私的独占

排除行為は、他の事業者の事業活動を継続困難にし、または新規参入を困難にする行為であると解釈されています。

排除型私的独占の類型

そして、排除型私的独占の例として、次の4類型を挙げることができます(排除型私的独占ガイドライン参照)。

  • 商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定
  • 排他的取引
  • 抱き合わせ
  • 供給拒絶・差別的取扱い

例えば、次のような場合が独占禁止法上問題になりうると考えられます。

  • 原価割れで売って、競合他社にギブアップさせる場合
  • 相手方に対し、自己の競合他社との取引を禁止するなどし、競合他社がこれに代わり得る取引先を容易に見いだすことができず「商売にならないよ。」となる場合
  • 取引先に対し、主たる商品Aの供給に併せて他の従たる商品Bを購入させ、Bの市場における競合他社がBを売る相手を容易に見つけられず「商売あがったりだ。」となる場合
  • 供給先が川下市場で事業活動を行うために必要な商品を供給する川上市場において、合理的な範囲を超えて、供給の拒絶・差別的な取扱いをし、これに代わり得る他の供給者を容易に見いだすことができない供給先事業者が「商売にならないよ。」となる場合
排除型私的独占の事例
【公取委令和3年2月19日】
C空港サービスが、
D空港における機上渡し給油(航空燃料を航空機の燃料タンクに給油することにより引き渡すこと)による航空燃料の販売に関して、自社の取引先需要者にE航空株式会社から機上渡し給油を受けないようにさせていることによって、
E航空株式会社の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、D空港における機上渡し給油による航空燃料の販売分野における競争を実質的に制限し、私的独占の禁止に反するとされた(C空港サービスに対し課徴金納付命令)。
【最高裁判決平成22年12月17日】
自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスをユーザーに提供している第一種電気通信事業者F(加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者)が、
ユーザー料金の届出に当たっては光ファイバ1芯を複数ユーザーで共用する安価な分岐方式を用いることを前提としながら、実際のユーザーへのサービス提供に際しては光ファイバ1芯を1ユーザーが使用する高価な心線直結方式を用いる一方で、
その方式による他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー料金を上回る金額(自らのユーザー料金がこの接続料金を下回る)とした行為が、
単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売などとして、排除型私的独占に該当するとされた。
【公取委命令平成21年2月27日】
委託を受けて音楽著作物の管理事業を行うGは、すべての放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収(楽曲が利用された割合を使用料に反映させることなく、放送事業者の放送事業収入に一定率を乗ずるなどの方法によって算定した管理楽曲の使用料を、包括的に徴収する方式。放送事業者は、他の管理事業者の楽曲を利用すると、別途、使用料がかさむことになる。)とする内容の利用許諾に関する契約を締結し、これを実施することによって、他の管理事業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限し、私的独占の禁止に反するとされた(排除措置命令)。

支配型私的独占の事例

支配行為は、他の事業者についてその事業活動に関する意思決定を拘束し、自己の意思に従わせることと理解されています。

【公取委平成27年1月16日】
H県経済連が、穀物の乾燥・調整・貯蔵施設工事(特定共乾施設工事)について、施主代行者として、工事の円滑な施工、管理料の確実な収受等を図るため、
・当該施設の既設業者を受注すべき者(受注予定者)と決定し、
・受注予定者に受注希望価格を確認しこれを踏まえて、受注予定者の入札すべき価格を決定し、受注予定者に当該価格で入札するよう指示し、
・他の入札参加者の入札すべき価格を決定し他の入札参加者に当該価格で入札するよう指示する方法等により、
受注予定者を指定するとともに、受注予定者が受注できるように入札参加者に入札すべき価格を指示し当該価格で入札させていた行為が、
入札参加者の事業活動を支配することにより、公共の利益に反して、特定共乾施設工事の取引分野における競争を実質的に制限し、私的独占の禁止に反するとされた(排除措置命令)。

不公正な取引方法の禁止

概要

「不公正な取引方法」とは、独占禁止法2条9項各号のいずれかに該当する行為をいいます。

不公正な取引方法の規制は、「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)を防ぐものといえます。

そして、「公正な競争」とは、昭和57年独占禁止法研究会報告書「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」によれば、次のような状態であるとされてます。

  • 事業者相互間の自由な競争が妨げられていないこと及び事業者がその競争に参加することが妨げられていないこと(自由な競争の確保)
  • 自由な競争が価格・品質・サービスを中心としたもの(能率競争)であることにより、自由な競争が秩序づけられていること(競争手段の公正さの確保)
  • 取引主体が取引の許否及び取引条件について自由かつ自主的に判断することによって取引が行われているという、自由な競争の基盤が保持されていること(自由競争基盤の確保)

これらが害されることを、それぞれ自由競争減殺、競争手段の不公正、自由競争基盤の侵害などのキーワードで表現されることがあります。

それでは、不公正な取引方法の各類型を見ていきましょう。

なお、以下で「一般指定」とは、不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)のことです。これは、独占禁止法2条9項6号に基づき公正取引委員会が指定する「不公正な取引方法」リストの1つです。

不当な差別的取り扱い

この類型には、共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号、一般指定1号)、その他の取引拒絶(一般指定2号)、不当な差別対価(独占禁止法2条9項2号、一般指定3項)、取引条件等の差別的取り扱い(一般指定4項)、事業者団体等による差別的取り扱い(一般指定5項)が含まれます。

そして、この類型の公正競争阻害性は、自由競争減殺に求められます。

例えば、差別された者が不利益を被り市場で競争できなくなる場合や、差別に伴う不利益により何らかの行為等へのインセンティブを与え、独占禁止法に違反した拘束等を実現する場合などが、問題となりうると考えられます。

不当な取引拒絶

共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号、一般指定1項)

独占禁止法2条9項1号が定める共同の取引拒絶は、次のとおりです。

一 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。

また、一般指定1項が定める共同の取引拒絶は、次のとおりです。

(共同の取引拒絶)
1 正当な理由がないのに、自己と競争関係にある他の事業者(以下「競争者」という。)と共同して、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。
一 ある事業者から商品若しくは役務の供給を受けることを拒絶し、又は供給を受ける商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
二 他の事業者に、ある事業者から商品若しくは役務の供給を受けることを拒絶させ、又は供給を受ける商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。
その他の取引拒絶(一般指定2項)

そして、一般指定2項は、その他の取引拒絶を、次のように定めています。これは、単独で、または競争関係にない者が共同して行う取引拒絶をカバーします。

(その他の取引拒絶)
2 不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせること。
不当な取引拒絶の違反事例
【公取委命令平成19年6月25日】
I市のタクシー事業者21社は、共通乗車券事業者J社のタクシー共通乗車券の使用者が低額な運賃を提供しているタクシー事業者に奪われていることに不満を有していたものであるが、かかるタクシー事業者が共通乗車券事業に係る契約を締結することができないようにすることを目的として、上記J社を解散させ、新たに共通乗車券事業者3社を設立し、低額なタクシー運賃を適用していたタクシー事業者がこれら3社との間で、共通乗車券事業に係る契約を締結することを認めないこととした行為が、正当な理由がないのに、共同して、J社及び共通乗車券事業者3社に、低額な運賃を適用するタクシー事業者3社に対しI交通圏における共通乗車券事業に係る契約を拒絶させているものであって、不公正な取引方法(共同の取引拒絶)に該当するとされた(20社に排除措置命令)。

差別対価・取引条件等の差別的取り扱い(独占禁止法2条9項2号、一般指定3項、4項)

差別対価・取引条件等の差別的取り扱いは、競合他社の商売を困難にさせる不当廉売タイプの行為、独占禁止法に違反する行為の実効性確保の手段、取引相手を著しく有利または不利に扱うことで相手方市場の競争に悪影響を与える行為などの形で問題となります。

そして、独占禁止法2条9項2号が定める差別対価は、次のとおりです。

二 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

また、一般指定3項が定める差別対価は、次のとおりです。

(差別対価)
3 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「法」という。)第二条第九項第二号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。

そして、一般指定4項の定める取引条件等の差別取扱いは、次のとおりです。

(取引条件等の差別取扱い)
4 不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること。

事業者団体における差別的取り扱い(一般指定5項)

一般指定5項が定める事業者団体における差別取扱い等は、次のとおりです。

(事業者団体における差別取扱い等)
5 事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し、又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取り扱い、その事業者の事業活動を困難にさせること。

不当対価取引

概要

この類型の公正競争阻害性は、自由競争減殺に求められると考えられます。

そして、例えば、不当な安売りで競合他社の販売行為を排除したり、不当な高値で購入して競合他社の購入行為の邪魔したりする場合などが、問題となると考えられます。

不当廉売(独占禁止法2条9項3号、一般指定6項)

独占禁止法2条9項3号が定める不当廉売は、次のとおりです。

三 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

一般指定6項が定める不当廉売は、次のとおりです。

(不当廉売)
6 法第二条第九項第三号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

これらは、ざっくり言うと、原価割れの安売りを規制するものです。例えば、A事業で利益が得られているから、これを原資にB事業で原価割れの安売りをする場合などが考えられます。

不当高価購入(一般指定7項)

一般指定7項が定める不当高価購入は、次のとおりです。

(不当高価購入)
7 不当に商品又は役務を高い対価で購入し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

不当対価取引の違反事例

【公取委命令平成19年11月27日】
ガソリンスタンドを営む石油製品小売業者K(L市における販売シェア約29%、普通揮発油の販売数量において第1位。K社と次のM社以外の市内の競争者の過半は小規模小売業者)が、M社(L市における販売シェア約12%、普通揮発油の販売数量において3位)と互いに値引き合戦となったところ、37日間、その仕入価格(運送費を含む。)を最大で10円以上下回る価格で販売した行為が、正当な理由がないのに普通揮発油をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、競争業者の事業活動を困難にさせるおそれがあり、不公正な取引方法(不当廉売)に該当するとされた(排除措置命令)。

事業活動の不当拘束

概要

この類型には、再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号)、排他条件付取引(一般指定11項)、拘束条件付取引(一般指定12項)が含まれます。

この類型の公正競争阻害性は、再販売価格の拘束であれば(川下市場等での)競争回避、排他条件付取引であれば競争排除、拘束条件付取引であれば競争回避と競争排除のいずれか一方または両方による、自由競争減殺に求められると考えられます。

再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号)

独占禁止法2条9項4号が定める再販売価格の拘束は、次のとおりです。

四 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

不当な排他条件付取引(一般指定11項)

一般指定11項が定める排他条件付取引は、次のとおりです。

(排他条件付取引)
11 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。

その他の拘束条件付取引(一般指定12項)

一般指定12項が定める拘束条件付取引は、次のとおりです。

(拘束条件付取引)
12 法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。

事業活動の不当拘束の違反事例

【公取委命令平成24年3月2日】
シューズ、スポーツ用品等の輸入業、販売業などを営むN社が、正当な理由がないのに、取引先小売業者に対しN社の定めた値引き限度価格または本体価格を維持させる条件を付けて大人気のトレーニングシューズOを供給し、取引先卸売業者に対し当該取引先卸売業者をして小売業者にこれらの価格を維持させる条件を付けてOを供給していた行為が、不公正な取引方法(再販売価格の拘束)に該当するとされた(排除措置命令)。
【公取委命令平成22年12月1日】
視力補正用コンタクトレンズの販売業を営むP社(一日使い捨てタイプの視力補正用コンタクトレンズの販売高において業界第1位)が、
・一日使い捨てタイプの視力補正用コンタクトレンズQ90枚パック及びQモイスト90枚パックの販売に関して、取引先小売業者が広告において販売価格の表示を行うことを、
・また、Qモイスト30枚パックの販売に関して、特定大口取引先小売業者がダイレクトメールを除く広告において販売価格の表示を行うことを、
それぞれ制限していた行為が、取引先小売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、当該取引先小売業者と取引していたものであり、不公正な取引方法(拘束条件付取引)に該当するとされた(排除措置命令)。

優越的地位の濫用

概要

優越的地位の濫用規制は、優越的地位にある、いわば力関係が上にある者が、そのような状態を利用して、競争が機能していれば課し得ない不利益な条件を相手に課す行為を規制するものです。

この類型の公正競争阻害性は、「取引主体の自由かつ自主的な判断により取引が行われるという自由な競争の基盤が侵害されること」に求められます(昭和57年独占禁止法研究会報告書「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」。自由競争基盤の侵害)。

くだけた表現をするならば、「相手の足元を見て搾取するのは止めてくださいね。」というイメージといえます。

優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)

独占禁止法2条9項5号が定める優越的地位の濫用は、次のとおりです。

五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

取引の相手方の役員選任への不当干渉(一般指定13項)

一般指定13項が定める取引の相手方の役員選任への不当干渉は、次のとおりです。

(取引の相手方の役員選任への不当干渉)
13 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方である会社に対し、当該会社の役員(法第二条第三項の役員をいう。以下同じ。)の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、又は自己の承認を受けさせること。

優越的地位の濫用の違反事例

【公取委命令平成21年6月22日】
コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営むR社(店舗数、売上額のいずれについても最大手)について、
・フランチャイジーにとってはR社との取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなりR社からの要請に従わざるを得ない立場にあるため、R社の取引上の地位は、加盟者に対し優越していること、
・R社は、加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、見切り販売を行おうとし、または行っているフランチャイジーに対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせていること
から、R社は、自己の取引上の地位が加盟者に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の実施について加盟者に不利益を与えているものであり、不公正な取引方法(優越的地位の濫用)に該当するとされた(排除措置命令)。

下請法による規制

優越的地位の濫用に該当する行為を迅速かつ効果的に規制するため、独占禁止法の補完法として、下請法が定められています。

下請法では、次のような親事業者の禁止事項が定められています。

  • 注文商品などの受領拒否
  • 商品などの受領後60日以内に定められた支払期日までに下請代金を支払わない支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 親事業者が指定する物などを強制的に購入・利用させる購入・利用強制
  • 親事業者の不公正な行為を公正取引委員会などに知らせたことに対する報復措置
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

不当な顧客誘引・取引強制

概要

この類型には、ぎまん的顧客誘引(一般指定8項)、不当な利益による顧客誘引(一般指定9項)、抱き合わせ販売など不当な取引強制(一般指定10項)が含まれます。

ぎまん的顧客誘引(一般指定8項)

一般指定8項が定めるぎまん的顧客誘引は、次のとおりです。

(ぎまん的顧客誘引)
8 自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。

ぎまん的顧客誘引は、「顧客の適正かつ自由な選択を歪め、また正しい表示等を行っている競争者の顧客を奪うおそれがあるので、それ自体能率競争に反する行為であ」り(昭和57年独占禁止法研究会報告書「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」)、その公正競争阻害性は、競争手段の不公正に求められます。

くだけた言い方をすると、正しい情報を提供して顧客にちゃんと判断してもらいましょう、まじめにやってる事業者が損をするようなことはやめてください、ということになります。

不当な利益による顧客誘引(一般指定9項)

一般指定9項が定める不当な利益による顧客誘引は、次のとおりです。

(不当な利益による顧客誘引)
9 正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること。

不当な利益による顧客誘引の公正競争阻害性は、「顧客を誘因する手段として不当な利益を提供する行為は、顧客の適正かつ自由な商品選択を歪めるだけでなく、このような行為が激化すればするほど、景品など経済上の利益の多寡又はその内容に競争が影響され、良質廉価な商品を提供する競争者の顧客を奪うおそれが生じる」点に求められます(昭和57年独占禁止法研究会報告書「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」)。

くだけた言い方をしますと、おまけで顧客の目を狂わせるのはやめましょう、まじめにやってる事業者が損をすることはしないでください、ということになります。

景品表示法による規制

もっとも、一般消費者に対する不当表示と過大な景品類の提供は、独占禁止法の特別法として制定された景品表示法により規制されえます。

景品表示法の規制概要については、「その広告やキャンペーン、景品表示法違反?弁護士が規制の概要を解説」をご覧ください。

不当な取引強制(抱き合わせ販売、その他の取引強制。一般指定10項)

概要

抱き合わせ販売の公正競争阻害性には、①顧客の商品・サービスの選択の自由を妨げるおそれがあり能率競争に反する不公正な競争手段であること、また、主たる商品の市場における有力な事業者が行い、従たる商品の市場における自由な競争を減殺するおそれがあることに求められます。

例えば、不人気商品をセットで売り付けられる場合や、パソコンのプレインストールのために、シェア1位の表計算ソフトをライセンスするとともにワープロソフトも併せてライセンスしたところ、それまでシェア1位だった他社のワープロソフトがその座を失う場合などが挙げられます。

一般指定10項が定める抱き合わせ販売その他の取引強制は、次のとおりです。

(抱き合わせ販売等)
10 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。
不当な取引強制の違反事例
【公取委勧告審決平成10年12月14日】
パソコン用ソフトウェアの開発及びライセンスの供与に係る事業を営むS社が、他社のワープロソフトT(ワープロソフト市場で市場占拠率1位)のみがパソコンにインストールされて販売されることは、自社のワープロソフトUの市場占拠率を高めるうえで重大な障害になると懸念し、また、自社のスケジュール管理ソフトVの供給を拡大するために、取引先パソコン製造販売業者等に対し、不当に、自社の表計算ソフトW(表計算ソフト市場で市場占拠率1位)の供給に併せてワープロソフトUを自己から購入させ、さらに、取引先パソコン製造販売業者に対し、不当に、表計算ソフトW及びワープロソフトUの供給に併せてスケジュール管理ソフトVを自己から購入させた行為(その後、UとVは、それぞれワープロソフト、スケジュール管理ソフト市場の市場占拠率が1位に。)が、不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)に該当するとされた。

不当な取引妨害・内部干渉

不当な競争者に対する取引妨害(一般指定14項)

取引妨害の公正競争阻害性は、価格・品質・サービスを中心とした能率競争を歪め、競争手段の不公正に求められる場合、自由競争減殺に求められる場合、これら両方を有する場合があると考えられます。

例えば、誹謗中傷、物理的妨害の場合や価格維持を目的に安売業者の取引を妨害する場合などが考えられます。

一般指定14項が定める競争者に対する取引妨害は、次のとおりです。

(競争者に対する取引妨害)
14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。

不当な内部干渉(一般指定15項)

一般指定15項が定める不当な内部干渉は、次のとおりです。

(競争会社に対する内部干渉)
15 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある会社の株主又は役員に対し、株主権の行使、株式の譲渡、秘密の漏えいその他いかなる方法をもつてするかを問わず、その会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、そそのかし、又は強制すること。

不当な取引妨害・内部干渉の違反事例

【公取委平成23年6月9日】
携帯電話向けソーシャルネットワーキングサービス(Xタウン)を登録ユーザーに提供する事業を営むY社(ソーシャルゲームに係る売上額1位)が、有力な事業者であると判断し選定したソーシャルゲーム提供事業者(特定ソーシャルゲーム提供事業者)に対して、
・今後、Y社と競争関係にあるZ社(ソーシャルゲームに係る売上額2位)を通じて新たにソーシャルゲームを提供しないこととした場合にはソーシャルゲームの開発・提供を支援していくこと、Z社を通じて新たにソーシャルゲームを提供した場合には、当該特定ソーシャルゲーム提供事業者がXタウンを通じて提供するソーシャルゲームのリンクをXタウンのウェブサイトに掲載しないこととする旨を伝えるなどしたこと、
・要請を受けた特定ソーシャルゲーム提供事業者の少なくとも過半が、Y社が許可したソーシャルゲームを除き、Z社を通じて新たにソーシャルゲームを提供することはしなかったこと、
・Z社は、要請を受けた特定ソーシャルゲーム提供事業者の少なくとも過半について、新たにソーシャルゲームを提供させることが困難となったこと
などから、
Y社は、自社と国内において競争関係にあるZ社と特定ソーシャルゲーム提供事業者とのソーシャルゲームに係る取引を不当に妨害していたものであって、この行為は不公正な取引方法(競争者に対する取引妨害)に該当するとされた(排除措置命令)。

事業者団体規制(独占禁止法8条)

独占禁止法8条は、事業者団体(社団、財団、組合などの形態のものを含む。)が、その活動として、競争の実質的な制限、現在・将来の事業者の数の制限、構成事業者の機能・活動の不当な制限、事業者に不公正な取引方法をさせる行為等を禁止しています。

(事業者団体の禁止行為)
第八条
事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。
一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
二 第六条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること。
三 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること。
四 構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること。
五 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。

企業結合規制(独占禁止法10条、13条〜17条)

株式保有、役員兼任、合併、共同新設分割・吸収分割、共同株式移転、事業譲受けなどの企業結合、M&Aにより、それまで独立して活動を行っていた企業間に結合関係が生まれ、当該会社グループが単独で、または他社と協調的行動をとることによって、競争を実質的に制限することとなる場合、つまり、ある程度自由に市場における価格、供給数量などを左右することができるようになる場合には、その企業結合は禁止されます(独占禁止法10条、13条〜17条)。

そして、いったん企業結合をしてしまうと、事後的にお別れをしてもらうのが困難な場合も多いことから、事前規制がされています。

すなわち、一定以上の規模の企業結合については、公正取引委員会に対する事前届出義務が課されています(独占禁止法10条2項等)。そして、届出受理の日から一定期間、その企業結合は禁止されます(独占禁止法10条8項。禁止期間)。

ですので、M&A契約を締結・実行する際には、この届出と禁止期間も考慮してスケジュールを立てる必要がある場合があります。

エンフォースメント(実効性確保)

独占禁止法違反行為に対する措置としては、行政上の措置を中心に、刑事罰、被害者救済のための民事的救済制度が置かれています。

行政上の措置

行政上の措置には、公正取引委員会による排除措置命令、課徴金納付命令、確約手続があります。

排除措置命令

排除措置命令は、将来に向けて違反行為を除去し、再発防止を図らせる命令です(独占禁止法7条、20条等)。

課徴金納付命令

課徴金納付命令は、違反者に対し、金銭的負担を課す制度です。カルテル・入札談合等の不当な取引制限、私的独占、優越的地位の濫用などの不公正な取引方法の一部について課されます(独占禁止法7条の2、7条の9,20条の6等)。

例えば、カルテル・入札談合などの不当な取引制限の場合、課徴金額は、基本は、違反行為に係る期間中の対象商品・役務の売上額などの10%と談合金などの合算額となります(独占禁止法7条の2)。

そして、違反行為を繰り返した場合や違反行為において主導的な役割を果たした場合にはそれぞれ課徴金額が1.5倍になります。さらに、 違反行為を繰り返し、かつ違反行為において主導的な役割を果たした場合には、課徴金額が2倍になります(独占禁止法7条の3)。

なお、事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免される課徴金減免制度(リニエンシー制度)が設けられています(独占禁止法7条の4~7条の6)。申請の順位に応じた減免率に、事業者の協力が真相の解明に資する程度に応じた減算率を加えた減免率が適用されるというものです。

自社でカルテル・入札談合が発見されたときには検討するべき制度です。

確約手続

確約手続は、公正取引委員会から所定の通知があった場合に、事業者が排除措置計画等の確約計画を自主的に作成・申請し、公正取引委員会の認定があったときには、公正取引委員会は排除措置命令、課徴金納付命令を行わないという制度です(独占禁止法48条の2以下)。

なお、入札談合・価格カルテルなどは対象外とされています。

民事的救済制度

違反行為の被害者の救済のため、被害者の違反者に対する無過失損害賠償請求訴訟(独占禁止法25条)と、不公正な取引方法についての差止訴訟(独占禁止法24条)の制度が定められています。

刑事罰

不公正な取引方法以外の違反行為に刑事罰が規定されています。例えば、私的独占または不当な取引制限をした者には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が定められています(独占禁止法89条1号)。

そして、法人に対する処罰を可能とするため、両罰規定が定められています。例えば、役職員が私的独占または不当な取引制限をしたときは、法人に対して5億円以下の罰金刑が定められています(独占禁止法95条1項1号)。

さらに、一定の場合には、違反行為の計画を知りながら防止措置を講じなかった法人代表者、違反行為を知りながら是正措置を講じなかった法人代表者を処罰する三罰規定が定められています(独占禁止法95条の2)。例えば、私的独占の禁止または不当な取引制限の禁止の違反があった場合、法人代表者には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されえます。

なお、不公正な取引方法については、確定した排除措置命令または競争回復措置命令に従わない者には2年以下の懲役または300万円以下の罰金が(独占禁止法90条3号)、法人には3億円以下の罰金(独占禁止法95条1項2号)が定められています。

まとめ

以上をまとめると、次のとおりになります。

なお、独占禁止法が禁止する行為類型は抽象的な文言で規定されているものが多いこと等から、実際には独占禁止法違反の有無の判断は困難な場合が少なくありませんので注意が必要です。ですので、専門家に相談しサポートを受けながら、会社としての対応を行っていくことをお勧めします。

弊所では、企業内弁護士として、独占禁止法違反の防止・是正のための社内体制整備に関する実務経験と実績を有する弁護士が、個別のご相談に応じ、また社内体制整備の支援を行っています。

  • 競争の機能を妨げる行為を禁止しよう、というのが独占禁止法の目的
  • 独占禁止法の三本の柱は、私的独占の禁止、不当な取引制限(カルテル)の禁止、不公正な取引方法の禁止、企業結合規制
  • 不公正な取引制限の禁止は、カルテルを規制するもの
  • 私的独占の禁止は、排除や支配といった人為的な行為により競争の実質的制限がなされることがないようにするもの
  • 不公正な取引方法の禁止は、自由な競争の確保、競争手段の公正さの確保、取引主体が自由かつ自主的に判断することによって取引が行われる自由な競争の基盤の確保をしようとするもの
  • 行政上の措置には、公正取引委員会による排除措置命令、課徴金納付命令、確約手続がある。
  • 刑事罰、被害者救済のための民事的救済制度が定められている。

 

おかげ様で、多くのみなさんからご相談いただいています。
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちらから