はじめに
ビジネスをしていると、業務委託契約をする機会も多いですよね。業務の効率化や外部の専門家を利用して品質を向上する等、アウトソーシング等をする場面でよくお目にかかります。例えば、製造委託、ソフトウェア開発委託、コールセンター業務委託等、様々な業務委託契約書がありますね。
でも、「業務委託契約」と一口に言っても、「請負」に近いものもあれば、「準委任」に近いものもあります。
日ごろから、請負か準委任かを意識して業務委託契約書の作成・レビューを行えていますか?
この点、請負と準委任とでは、受注側の義務等が大きく異なります。
そのため、準委任なのか請負なのかを意識して業務委託契約書の作成・レビューを行わないと、「成果物の修正はやってもらえないの?追加料金が必要なの?」、「成果物の修正までやらないといけないの?追加料金もなしで?」等といった事態を招くリスクがあります。また、準委任なのか請負なのか混乱した契約書になってしまい、互いに「請負である。」「準委任である。」と言い合ってトラブルを招くおそれもあります。
そこで、このようなリスクをコントロールする観点から、以下では、業務委託契約とは何か、請負とは何か、準委任とは何か、請負と準委任との違いは何か、これらの観点から業務委託契約で注意すべきポイントは何か等について解説します。
なお、契約書作成・契約書リーガルチェック一般(非専門家による失敗例の紹介を含む。)については、「トラブル未然防止だけじゃない!リスクマネジメントから事業価値の向上まで。参議院法制局で法律案を作っていた企業法務弁護士による契約書作成・リーガルチェック(レビュー)」をご覧ください。
また、業務委託契約書全般に関する注意点については、「業務委託契約締結の前に!元・企業内弁護士が業務委託契約書の作成・リーガルチェックにおける注意点を解説」をご覧ください。
業務委託契約とは
業務委託契約とは、一般に、業務を第三者に委託する契約をいいます。
そして、業務委託の目的や内容によって、請負に近いか準委任に近いかが変わってきます。
請負とは
請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約をいいます(有斐閣・法律用語辞典)。
典型例として、建築工事請負契約が挙げられます。また、システム開発業務委託契約も請負的であることが多いと思われます。
準委任とは
準委任とは、法律行為でない事務の処理を委託する契約をいいます(有斐閣・法律用語辞典)。
例えば、コールセンター業務委託契約やコンサルティング契約が挙げられます。また、ソフトウェア開発における要件定義を準委任とする場合や、アジャイル開発を準委任で行う場合も挙げられます。
請負と準委任の違い
このように、請負と準委任は、業務を第三者に委託するという点で共通しますが、民法のデフォルトルールでは、主に以下の違いがあります。
契約目的の違い
上記の請負の定義に、「仕事の完成を約し」とありました。このように、請負契約は、仕事の完成を目的とします(民法632条)。
これに対して、準委任は、仕事の完成を目的とするものではなく、相手方の専門的能力を信頼して、一定の事務処理を委託することを目的とします(民法656条参照)。
見方を変えると、業務委託契約が請負か準委任かは、仕事の完成を目的としているか、それとも単なる事務処理の委託を目的にしているかを基準に判断することになります。
仕事完成義務の有無
定義に「仕事の完成を約し」とあるとおり、請負における請負人(受注側)は、仕事の完成義務を負います。
これに対して、準委任における受任者(受注側)は、仕事の完成義務を負いません。
そのため、請負における請負人は、仕事を完成しなかったり、完成しても納期に遅れたりすると、債務不履行になります。その結果、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うリスクがあります。
これに対して、準委任における受任者は、仕事の完成義務を負いません。そのため、仕事の未完成や納期遅延を理由に債務不履行責任を負うことはありません。
もっとも、善管注意義務(その職業や社会的地位において一般に要求される程度の注意義務。民法656条・644条)を負います。そのため、例えばプロとしてなすべきことをしないと、善管注意義務違反を理由に債務不履行に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
このように、請負と準委任とで、受注側の義務の内容が大きく変わってきます。
そして、業務委託契約を締結する際、「受注側はどこまでやってくれるのか、やらなければいけないのか。」、請負なのか準委任なのかを意識する必要性が高いです。
この点を十分意識して業務委託契約書をチェックしておかないと、「相手(受託側)は完成義務を負っているものだと思っていたが、裁判官が準委任と認定し、相手に完成義務がなかったよ。」、「自分(受託側)は完成義務を負っていないと思っていたけど、裁判官が請負と認定し、完成義務を負っていたよ。」等というリスクが発生し得ます。
契約不適合責任の有無
請負人は、契約で特定された仕様等に従って仕事を完成する義務を負います。そのため、仕事を一応完成したものの、不具合がある等、仕事の目的物が契約の内容に適合していない場合、債務不履行といえます。
そこで、請負人は、原則として、次のような契約不適合責任(債務不履行責任の特則です。)を負います。
- 履行の追完請求
例:「不具合があるから契約に適合するように直してください。」 - 報酬の減額請求
例:「不具合を直さないなら報酬を減額してください。」 - 損害賠償請求
例:「不具合により損害が生じたから損害賠償してください。」 - 契約解除
例:「直せる見込みもないし、これでは契約した目的も達成できません。そこで、契約を初めからなかったことにします。報酬は払いません。」
これに対して、準委任における受任者は、契約不適合責任を負いません。もっとも、例えばプロとしてなすべきことをしなかった等、善管注意義務違反があった場合、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
このため、業務委託契約を締結する際、請負か準委任かを十分意識して契約書をチェックしておかないと、「相手(受託側)は追完義務等の契約不適合責任を負っているものだと思っていたが、裁判官が準委任と認定し、相手に契約不適合責任がなかったよ。」とか、「自分(受託側)は契約不適合責任を負っていないと思っていたけど、裁判官が請負と認定し、契約不適合責任を負っていたよ。」というリスクが発生し得ます。
キャンセル(解除)
請負の注文者(発注側)は、請負人が仕事を完成しない間は、いつでも損害賠償をして契約を解除できます(民法641条)。
これは、仕事完成前に、注文者が「完成してもらう必要がなくなったよ。」という場合には、もう仕事を完成させる意味もないことから、契約をキャンセルできるようにしたものです。
これに対して、準委任では、各当事者はいつでも解除をすることができます。準委任では、「この人だから委任した・受任した。」という信頼関係が重視されており、このような信頼関係が失われた場合に解除できるようにしたものです。
なお、相手方に不利な時期に解除したとき等、一定の場合には、損害賠償をする必要があります(民法656条・651条)。
報酬の支払時期
請負において、報酬は、原則として、仕事の目的物の引渡しと同時に(物の引渡しを要さない場合は仕事の完成後に)支払わなければなりません(民法633条)。報酬は、仕事の完成の対価ということですね。
準委任において、受任者は、報酬特約がなければ、報酬を請求することができません。そして、かかる報酬は、原則として委任事務を終了した後でなければ請求できません(民法648条)。報酬は、事務処理の対価ということですね。
業務委託契約書作成・レビューにおける注意点
以上では、業務委託契約と言っても請負に近いものも準委任に近いものもあること、請負と準委任とでは受注側の義務等が異なるので、業務委託契約書の作成・レビューの際には請負か準委任か意識する必要があることをお話してきました。
以下では、これを受けて、業務委託契約書の作成・レビューにおける注意点を解説します。
請負か準委任か〜法的性質の決定
既にお話したように、業務委託契約が請負か準委任かは、仕事の完成を目的としているか、それとも単なる事務処理の委託を目的にしているかを基準に判断することとなります。
例えば、製造委託であれば、仕事の完成を目的としており請負に近い場合もあろうかと思われます。
また、例えば、コールセンター業務の委託であれば、仕事の完成というものが考えにくいので、事務処理を委託するものであって、準委任に近いと思われます。
他方、例えば、IPAの「情報システム・モデル取引・契約書」では、システム開発に関し、次のような解説があります。
- 要件定義等、「企画段階は、ユーザ側の業務要件が具体的に確定しておらず、ユーザ自身にとってもフェーズの開始時点では成果物が具体的に想定できないものであるから、ベンダにとっても成果物の内容を具体的に特定することは通常不可能である。そのため、仕事の完成を目的とし予め成果物の内容が具体的に特定できることを前提とする契約類型である請負には馴染みにくく、準委任が適切と考えられる」
- 「請負に馴染むのは、業務に着手する前の段階でベンダにとって成果物の内容が具体的に特定できる場合であるが、内部設計やソフトウェア設計などのフェーズはこうしたことが可能であり、請負で行うことができる。」
- 「システム外部設計とシステムテスト業務はユーザ側の業務要件に関わる部分が多く、その点では準委任に馴染むが、従来の実務では請負で行われている場合も多い。」
このように、ある業務を委託する契約が、仕事の完成を目的とするかはあいまいな部分があり、「この業務を委託する業務委託契約は請負/準委任である。」と峻別するのは難しい場合もあると考えられます。
そうすると、着手前に成果物の内容が具体的に特定でき(いわばゴールが具体的にわかり)請負に馴染むのか、受託側として完成義務・契約不適合責任を負うことができるのか、取引の実態に合った契約類型はどちらか、システム開発のように当事者双方の協力関係が必要な取引であればどのような役割分担となっているか、場合によっては受託側に完成義務・契約不適合責任を負わせない取引とするかという判断等も考慮して、請負か準委任か、業務委託契約の法的性質を決定していくという部分もあると考えられます。
なお、業務委託契約書に、この契約が請負(または準委任)である旨を確認する定めを置くことがあります。もちろん、契約書全体を見て請負(または準委任)といえることが前提となります。
完成義務、検査・追完、契約不適合責任に関する規定
請負で取引をしようとなった場合、請負人に完成義務がある旨明示する規定、成果物の検査・追完に関する規定、契約不適合責任に関する規定を定めることにより、請負人の完成義務が明らかになり、業務委託契約が請負と認定されやすくなると考えられます。
これに対し、準委任における受任者は、完成義務も契約不適合責任も負いません。そこで、準委任で取引をしようとなった場合、受託側に完成義務があり請負と認定されることを防ぐため、受託側に完成義務があるとする規定、成果物の検査・追完に関する規定、契約不適合責任の規定を置かないようにすることが考えられます。
明示的に、受任者が完成義務と契約不適合責任を負わないことを定めることも一案です。
まとめ
以上をまとめると、次のとおりとなります。
今回の記事では言及しませんでしたが、業務委託契約では、偽装請負や下請法違反に該当しないよう配慮したり、必要に応じて秘密保持条項、個人情報の取扱いに関する条項、再委託の可否等に関する条項を定めたり、知的財産権の帰属、第三者の知的財産の非侵害の保証に関する条項を定める等、他にもチェックポイントが多数ありますので、弁護士のアドバイス等を得ながらリーガルチェックをすることをお勧めします。
弊所では、法律案立案の経験を有し、契約書の作成・リーガルチェックに関する豊富な実務経験と実績を有する企業法務弁護士が、業務委託契約に関する助言、作成・リーガルチェックを行っています。
- 業務委託契約とは、一般に、業務を第三者に委託する契約をいう。そして、業務委託の目的・内容によって、請負に近いか準委任に近いかが変わってくる。
- 請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約をいう。
- 準委任とは、法律行為でない事務の処理を委託する契約をいう。
- 請負と準委任は、契約目的が異なり(仕事の完成か一定の事務処理の委託か)、仕事の完成義務の有無、契約不適合責任の有無等に違いがある。
- 業務委託契約書の作成・レビューに当たっては、契約の目的等を基準に業務委託契約が請負か準委任かを意識し、その法的性質に従って、完成義務に関する規定、検査・追完に関する規定、契約不適合責任に関する規定の要否等をチェックしていく必要がある。