はじめに
スタートアップ企業(ベンチャー企業)が、イノベーションを起こして、急成長を遂げ、事業を成功させるためには、投資家から出資を受けて資金調達(第三者割当増資などのエクイティ・ファイナンス)を成功させることが欠かせませんよね。
この記事の読者の皆さんにも、エンジェル投資家、VC(ベンチャーキャピタル)、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)など、投資家からの出資の受入れを検討している方が多いのではないでしょうか?
「資金調達を成功させ、事業に勢いをつけて、一気にプロダクトをリリースしてスケールさせるぞ!社会にイノベーションをもたらすんだ!」と、わくわくした気持ちになりますね。
しかし、出資の受入れはリスクを伴います。
出資についての理解不足などの結果、不利・アンフェア・不適切な条件で出資を受け入れてしまうと、事業への支障となり、ひどい場合には、事業やイグジット(エグジット、EXIT)の失敗につながります。
そこで、この記事では、出資の受入れの際の注意点について解説します。
資金調達における注意点
出資の受入れの際の注意点として、よくある失敗例とトラップを紹介しましょう。ただし、決して、漏れなく網羅的にピックアップして整理したものではありませんので、ご注意ください。
- 交渉中、秘密保持契約(NDA)を締結していないのにもかかわらず、投資家から求められるままに秘密情報を提供してしまった。その結果、投資家が、別の投資先に、その秘密情報を漏えいした上、これを使って事業を行わせた。
- 投資家が、秘密保持契約(NDA)に違反して、別の投資先に秘密情報を漏えいした上、これを使って事業を行わせた。
- 資本政策に失敗してしまって、投資家の持ち株比率が過大となり、
- 創業者だけで定款変更をすることができなくなってしまった。その結果、投資家が賛成しない限り、本店所在地を変更して引っ越しすることすらできない。また、事業目的を変更してピボットすることもできない。
- 投資家が同意しない限り、創業者が取締役であり続けることができず、任期満了とともに経営陣から追放されるリスクがある。
- イグジット(エグジット、EXIT)の際に創業者が得られるリターンが過少となってしまい、事業に取り組むインセンティブが下がった。
- 次回ラウンドの際、創業者の持ち株比率が過少であることを理由に、新たな投資家候補から出資を断られた。
- 過大となった投資家の持ち株比率を修正したいが、投資家から株式を買い取ろうとすると多額のお金が必要となってしまう。
- 投資契約により、事業遂行上、想定外の制約を受けることとなり、
- 細かい点についても投資家の事前承認や事前協議が必要となり、事業のスピードが損なわれた。
- 投資家への報告事項が多く、過剰な負担となり、会社のリソースが割かれ、事業のスピードが損なわれた。
- 資金使途が制限され過ぎていて、このままではピボットが難しい。
- 表明保証条項において、保証できないことまで保証させられた。
- 誓約条項において、できないことをコミットさせられた。
- 投資契約において、事業がピンチの際、投資家から高値で株式を買い取ったり、投資家に多額の補償をしたりするなどの、過大な責任を負わされた。
- 出資したお金を取り戻したいのか、投資家が揚げ足とりのように表明保証条項違反や誓約条項違反を主張してきた。
- 投資家が一見もっともらしい妥協案を伝えてきたので、その内容について弁護士に確認したら、結局、妥協案の内容は投資家自身に都合の良いものだった。
- 協議の際に、投資家が、何か提案する都度、検討する時間もないような短期間のうちに回答するよう言って圧力をかけてきたが、弁護士によると、よくある交渉テクニックの一種らしい。
- 資金調達に当たって専門家の意見を聞きながら進めようと思い、投資家の顧問弁護士に相談したが、冷静に考えると、結局、投資家の顧問弁護士は「投資家の雇われガンマン」だと気付いた。
- 投資家が、スタートアップ(ベンチャー)側に有利な提案をしてきたものの、契約書に明記して欲しいと何度言っても応じてくれなかった。投資の実行後、提案を実行してくれない。
- 投資の実行後、投資家が、過度に頻繁な報告など、投資契約書に書いていないことを要求してきたり、必要もないのに投資家の商品・サービスの購入を要求してきたりして、負担が重い。弁護士に相談したら、会社法上も投資契約上も義務のないことであった。要求が独占禁止法に反することもあるらしい。
いかがでしょうか?将来への深刻な影響を回避するために注意すべき事柄が、意外と多いのではないでしょうか。
適正な資金調達を成功させるためには?
それでは、このような失敗やトラップを回避して適正な資金調達を成功させるためには、どうしたら良いでしょうか?
まず、なぜ、このような失敗やトラップにはまってしまうのでしょうか?
その原因として、例えば、次のようなものを挙げることができると思われます。
- 投資家との接触から出資完了に至るスタートアップ投資のプロセス全体におけるリスクについての理解不足
- 民法、会社法、投資契約等、リーガル面での理解不足
- 投資条件の、将来への影響についての理解不足、認識不足
- 投資契約書案に対する、適切な内容・適切な文言による修正提案スキルの不足
- スタートアップ投資に関する交渉の厳しさの認識不足、交渉自体の経験・スキルの不足
ところが、スタートアップ企業(ベンチャー企業)の創業者は、プロダクトの研究・開発、営業、会社の運営などで多忙であることが多いでしょう。その上、資金調達となると、投資家と厳しく長い交渉を行うこととなります。そして、複数の投資家から出資を断られることもあります。ですので、創業者は、時間とメンタルを削られて、本業のパフォーマンスを落としかねない状況になることもあります。
その中で、創業者が一人で専門的な知識を勉強して資金調達に対応するとなると、とても大変ですよね。
しかも、出資の受入れは、将来にわたり長く重要な影響を及ぼします。特に資本政策は、一度失敗すると後から修正することが難しいです。
そうすると、スタートアップ企業(ベンチャー企業)が適正な資金調達を成功させるためには、専門家の支援を受けること、特にスタートアップ法務に強い弁護士の支援を受けることが有効かつ合理的な選択肢となります。
このような、スタートアップ法務に強い弁護士の支援により、例えば、次のようなベネフィットが期待されます。
- 投資家の利益ではなく、スタートアップ企業(ベンチャー企業)の利益を確保するためのアドバイス・支援を受けることができる。
- 投資家からの要求・提案に対し、その意味と招く結果を慎重に検討した上で、法的根拠その他の合理的な理由を付して、謝絶や代替案の提案をすることができ、これはスタートアップ(ベンチャー)の利益を確保しつつ円滑に交渉を進めることに資する。
- 不利・アンフェア・不適切な条件による資金調達を回避し、これにより資金調達後の事業を円滑かつスピーディに遂行することができ、また、事業の成功確率が高まる。
- 苦境に陥ったときに投資家とうまく利害調整できるよう事前に備えることにより、トラブルの防止を図ることができる。
- これらの結果、スタートアップ(ベンチャー)と投資家がwin-winの関係を築き、協働していくことができる。
当事務所の支援について
具体的な支援内容については、スタートアップ企業(ベンチャー企業)の創業者様と、その状況等を踏まえて、協議し決定した上で、これを提供しております。
例えば、次のような事項の支援を行っています。
- 適正な資本政策(いつ、誰に、いくらで株式をいくつ付与するか。)のためのアドバイス
- 適切なスキームの選択(普通株式、種類株式(優先株など)、転換社債、新株予約権、J-KISSなど)に関するアドバイス
- 適切な投資の条件その他の交渉事項に関するアドバイス
- プロセスの流れ・進め方に関するアドバイス
- 投資家側の交渉テクニックに振り回されないためのアドバイス
- 投資契約書、株主間契約書、財産分配契約書の作成・レビュー
- 株式発行などの各種社内手続支援、各種議事録作成
- 登記申請 等
当事務所では、スタートアップ企業の資金調達支援に関する多数の実績と実務経験を有する弁護士が、スタートアップの創業者様を支援します。
特に当職は、スタートアップ起業家と(物理的に)机を並べ、投資家との交渉状況について、ミーティングの直後に共有を受けて協議するなど、文字通り、伴走し資金調達を支援した経験を有します。
まとめ
以上、スタートアップ企業(ベンチャー企業)が事業を成功に導くために知るべき資金調達における注意点について解説してきました。
不利・アンフェア・不適切な条件による資金調達、事業・イグジット(エグジット、EXIT)の失敗を回避し、事業を成功に導くためには、スタートアップ法務弁護士による支援が有効となりますので、お気軽にお問い合わせください。