はじめに
前回及び前々回の記事では、「FinTech(フィンテック)のうちキャッシュレス決済サービスや送金サービスには資金決済法の規制が及ぶことが多い。」「同法のどのサービス類型の規制が及ぶのか及ばないのか、規制が及ぶとしても、どんなときにどんな義務が発生し、どんなときには発生しないのか等を把握しておかないと気付かないうちに資金決済法に違反してしまうリスクがある。」という観点から、
○前払式支払手段の規制(「フィンテック:前払式支払手段の規制とクリアランスのポイント5つを金融業界経験弁護士が解説」)
と、
○資金移動業の規制(「フィンテック:送金サービスへの資金移動業規制を金融業界経験弁護士が解説」)
について解説しました。
そこで、今回の記事では、いわばシリーズ第3弾として、FinTech(フィンテック)のうち、仮想通貨(この記事では、「仮想通貨」という用語を、日常用語としての「仮想通貨」を意図して使用しています。旧資金決済法で定義されていた「仮想通貨」としては使用していませんのでご注意ください。)、NFT(非代替性トークン)、ブロックチェーン技術を利用したサービスへの適用がしばしば問題となる、資金決済法の「暗号資産交換業」規制について解説します。
なお、ブロックチェーン技術を用いたビジネスモデルとして、動産、不動産、債権、ファンド等について考察したものとして「ブロックチェーン関連技術にまつわる法的問題とその解決」がありますので、ご参照ください。この論文には書いていませんが、不動産の持分、不動産特定共同事業法、著作権、著作権のライセンス等、様々なスキームを研究していますので、興味のある方はどうぞお問合せください。
補遺
ブロックチェーンとは?
まず、ブロックチェーンないし分散型台帳技術(DLT )は、ビットコインの基盤技術として開発されたものです。
そして、現在、ブロックチェーンやDLTについて確立した定義はありませんが、「一般的には、DLTは、多数の参加者が、帳簿間の不一致や二重譲渡などを避けながら同じ帳簿を共有する技術を指し、ブロックチェーンはそのための技術の一つを指すことが多い。」と言われています(柳川範之・山岡博巳「ブロックチェーン・分散型台帳技術の法と経済学」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ17-J-1(2017))。
このように、ブロックチェーン自体は、本質的には、いわば帳簿やメモ用紙です。紙や鉛筆と同様、単なる道具です。
そして、ブロックチェーンの利用自体は、核燃料物質の使用や原子炉の建設等(原子力基本法)と異なり、(幸いなことに)法律で規制されているものではありません。
NFT(非代替性トークン)とは?
次に、最近話題となっているNFTについて述べます。
NFTとは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略称であり、ブロックチェーン技術を利用したトークン(標章等の意味)のことを指す用語です。
また、NFTアートという用語もあります。これは、アート作品と何らかの形で紐づいたNFT(例えば、ブロックチェーン台帳のリンク先データから順次たどっていくと、どこかのサーバーに保存していあるアート作品の画像データのURLに行きつく等。このデータには、誰でもアクセスできる場合もあります。)を意味します。
この点、NFTの「非代替性」なるコンセプトは、ビットコインのように同じトークンが多数存在しているのと異なって、「ひとつひとつのトークンが固有の値をもち、他のトークンと区別できるという特徴を有している」ことと理解されています(増田雅史弁護士「弁護士が解説『NFTの取引』とはいったい何なのか」)。
アナログ世界で例えるならば、地番ごとに不動産登記簿という帳簿があるようなイメージですね。
あるいは、ハローキティの画像データと紐づいたNFT台帳(台帳にはシリアル番号のようなものを記載)は、シリアル番号が刺繍された限定品のハローキティのぬいぐいるみに似ている、といえるかもしれません。
そして、僕は、そのようなNFTハローキティを買う気しかしません。ハローキティの画像自体はスクリーンショット等によりいくらでも複製し得るし、冷静に考えるとNFT台帳に自分のIDが記録されるだけなのに!なお、画像データを収集して非正規NFTを発行する人が現れたら悲しいので、正規NFTでなければ得られないサービス等を附帯してほしいですね。そうすれば台帳に自分のIDが記録される以上の喜びも。
すみません。脱線しました。
なお、NFTにせよNFTアートにせよ、それ自体は単なる帳簿ですので、直ちに、これに所有権や著作権がくっついて移転するものではありません。ある人の名前が不動産登記簿という帳簿に記載されていても、必ずしもその人が当該不動産の所有者ではないことと同様です。
ブロックチェーン技術等を利用したサービスを検討する際の注意点
ですので、ブロックチェーン技術にせよNFTにせよ、これらを使って、どのようなビジネスをどのようなスキームで行うのか?がポイントです。
例えば、ブロックチェーン技術を使った、「仮想通貨っぽいもの」をリリースしようする場合でも、その内容によって「暗号資産」に該当するかどうかが決まってきます。
そして、「暗号資産」に該当しない場合でも、他の規制が及ぶこともあれば、何も規制が及ばないこともあります。
また、ブロックチェーン技術を使ったNFTをリリースしようとする場合でも、後述のように、基本的には「暗号資産」に該当しないと思われるものの、「暗号資産」に該当し得る場合も理論的にはあり得ます。
他方、ブロックチェーン技術以外の技術によって、ブロックチェーン技術を使った仮想通貨のようなものをリリースしようとする場合でも、その内容によって「暗号資産」に該当することもあり得ますし、他の規制が及ぶこともあり得ます。
ポイントは、「ブロックチェーン」とか「NFT」という「キーワード」ではなくて、「中身」を見ることが重要です。
暗号資産とは?
暗号資産の定義
「暗号資産」とは、次の1号暗号資産と2号暗号資産をいいます。ただし、後述する「電子記録移転権利」(金融商品取引法2条3項)を表示するものは、「暗号資産」から除外されます(資金決済法2条5項)。
① 代金の弁済のために不特定の者に対して使用することができること
②不特定の者を相手方として(法定通貨で)売買できるること
③電子的方法により記録されている財産的価値であること(ただし、法定通貨と通貨建資産を除きます。)
④電子情報処理組織を用いて移転することができること
①不特定の者を相手方として1号暗号資産と相互に交換を行うことができること
②電子的方法により記録されている財産的価値であること(ただし、法定通貨と通貨建資産を除きます。)
③電子情報処理組織を用いて移転することができること
かみ砕いて説明すると、次のようなイメージです。
2号暗号資産=1号暗号資産と交換できる電子マネー
暗号資産該当性回避のポイント
以上の暗号資産の定義、そして解釈から、その該当性が否定されるポイントを整理すると、次のようになります。
前払式支払手段に該当する場合
まず、金融庁・2017年3月24日付「『銀行法施行令等の一部を改正する政令等(案)』等に対するパブリックコメントの結果等について」別紙1p34は、「資金決済法第3条に規定する前払式支払手段に該当する場合は、資金決済法第2条第5項に規定する仮想通貨(筆者注:現行法の暗号資産)には該当しないものと考えられます。」と述べています。
その根拠は明示的に述べられていなませんが、まず、前払式支払手段は、発行者や加盟店という特定の者に対してしか使用できないことから、1号暗号資産該当性が否定されます(上記1号暗号資産の要件①非該当)。
また、このような前払式支払手段を1号暗号資産と交換できたとしても、これは家電量販店においてギフトカードをビットコイン払いで購入するのと同様です。そうすると、あえて、この前払式支払手段に対し、2号暗号資産だとして規制を及ぼす必要性も乏しいように思われます。
さらに、いずれにせよ、前払式支払手段の規制は及びます。
そこで、金融庁は、重ねて暗号資産に関する規制を及ぼす必要性に乏しいと判断し、上記のように述べたのかな、と想像されます。
このように、リリースするものが前払式支払手段に該当する場合、暗号資産に関する規制は及ばないこととなります。その代わりに、前払式支払手段の規制が及び得ます。
前払式支払手段の規制については、「フィンテック:前払式支払手段の規制とクリアランスのポイント5つを金融業界経験弁護士が解説」をご参照ください。
実際にこのような前払式支払手段スキームの仮想通貨が存在します。
例えば、「JPYC」と呼ばれる仮想通貨があります。これは、ステーブルコイン(他の資産に連動させた仮想通貨のこと。JPYCの場合、1JPYC=1円に固定)と呼ばれる種類の仮想通貨です。
参考:「日本円ステーブルコインのJPYC|関東財務局への自家型前払式支払手段発行者届出一覧への掲載と発行保証金の供託完了のお知らせ」
そして、JPYCは、前払式支払手段なので、特定の者に対する弁済にしかできません。
また、前払式支払手段なので、現金での払戻しはできません。もっとも、JPYCのウェブサイトを見る限りですが、Vプリカギフト(ネット上のVISA加盟店で使用可能なギフト券)を購入できるようです。その意味で、JPYCも、Vプリカギフトを介するものの、「お金っぽさ」がありますね。
通貨建資産に該当する場合
上記のとおり、通貨建資産に該当する場合、暗号資産に該当しません。
ここで、「通貨建資産」の定義は、次のとおりです(資金決済法2条6項)。
または
②法定通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなされます。
例として、銀行の預金債務を挙げることができます。
通貨建資産スキームの仮想通貨の例としては、「DCJPY」(仮称)が挙げられます。
この点、「3大メガバンクをはじめとする民間企業70社からなり、日銀や金融庁、財務省などがオブザーバー参加するデジタル通貨フォーラムが…民間銀行預金型のデジタル通貨である「DCJPY」(仮称)の実証実験を21年度中に始めると発表した。22年度中の実用化を目指」しているとのことです(日経新聞「ステーブルコイン包囲網 前門の規制、後門の法定通貨」)。
このDCPYは、預金債務と位置付けられた円建てのデジタル通貨として設計されています。そのため、通貨建資産に該当し、暗号資産に該当しないものと考えられます。
参考:「DCJPY(仮称)ホワイトペーパー」
なお、金融庁は、「法定通貨と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行額と同額での償還を約するものの発行・移転は、為替取引に該当し得ることを踏まえ、銀行業免許・資金移動業登録を受けなければ行うことができないと解される。」と述べています(2021年11月11日第2回金融審議会資金決済ワーキング・グループ資料2-1)。
このように、通貨建資産に該当する場合、検討対象のサービスが、為替取引に該当し、銀行等以外の事業者は、資金移動業の登録が必要になる可能性があるので注意が必要です。
為替取引と資金移動業の規制については、「フィンテック:送金サービスへの資金移動業規制を金融業界経験弁護士が解説」をご参照ください。
「不特定」の要件(1号暗号資産要件①②、2号暗号資産要件①)の欠如
「トークンの仕組み上、特定の者の間でしか移転できない等の制限が設けられている場合、基本的には『不特定性』の要件を充足しないと考えられ」るので、そのようなスキームの設計にすれば暗号資産該当性が否定され、資金決済法の規制を回避し得ます。
もっとも、「例えば、当該制限を事後的に解除する等により、当該トークンが広く転々流通することが合理的に見込まれる場合」や「例えば、トークンの移転先が、本人確認等を経て一定の審査や登録等が行われた者のみに限定されている場合であっても、当該者が継続的に入れ替わるなど、当該トークンが広く転々流通することが合理的に見込まれる場合」には「不特定性」の要件を充足する可能性があるので注意が必要です(金融庁・2019年9月3日付「『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)』の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」別紙1p1)。
したがって、特定の者の間でしか移転できないクローズドなトークンは、基本的には、「暗号資産」に該当しないものの、例えば、事後的に不特定の間で広く流通することが予定されていたり、クローズドであるものの入退会がほぼ自由なプラットフォーム内で流通したりする場合等には、「暗号資産」に該当することがあり得ますので注意が必要です。
決済手段等の経済的機能を欠くもの
2号暗号資産が規制対象となった趣旨は、「物品等の購入に直接利用できない又は法定通貨との交換ができないものであっても、2号仮想通貨(筆者注:現行法の暗号資産。以下、このパラグラフと次のパラグラフにおいて同じです。)と相互に交換できるもので1号仮想通貨を介することにより決済手段等の経済的機能を有するものについては、1号仮想通貨と同様に決済手段等としての規制が必要と考えられるため、…資金決済法上の仮想通貨の範囲に含めて考えられた」ことにあります。
したがって、「例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。」とされています(金融庁・2019年9月3日付「『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)』の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」別紙1p2)。
素朴なイメージとしては、例えば、「ピカソの作品もストラディバリのバイオリンも、お金と交換できるものの、現金の代わりにはならない。」、「米・布・塩も、お金と交換できるものの、現金の代わりにはならない。」というものに近いかと思われます(もっとも、古代日本では、米・布・塩等がお金のような役割を果たしていたようです。造幣局「日本の貨幣の歴史」参照)。
そして、このように決済手段等の経済的機能を欠くものの具体例として、近年話題のNFTが挙げられます(現時点では、あたかも現金のように、支払いに使用されていないものと思われます。)。
もっとも、1つひとつ区別されるNFTであっても、これらが大量に発行され、現金のように支払いに使用される実態があったり、あるいは、このようなことを意図して発行者が発行したりするような場合には、決済手段等の経済的機能を有するとして2号暗号資産に該当する可能性はあると思われます。
例えば、当該NFTの発行・使用実態が、あたかも紙幣が(番号によって1枚1枚区別されるもののほとんど個性がなく)支払いに使用されている状況に類似しているという場合を挙げることができると思われます。
電子記録移転権利の除外
「電子記録移転権利」(金融商品取引法2条3項)を表示するものは、暗号資産から除外されます。
「電子記録移転権利」は、ざっくりいいますと、ファンド等の有価証券の性質をもった電子的なトークンのことです。
そして、このような電子記録移転権利が暗号資産から除外される趣旨は、このようなトークン等は、本質的にファンドなので、資金決済法ではなく金融商品取引法で規制しましょうという点にあると考えられます。
具体例としては、事業収益の配当を行う、いわゆるセキュリティトークンが、「電子記録移転権利」に該当し、「暗号資産」から除外されることが多いと考えられます。
登録制度
暗号資産を利用したビジネスやサービスを行うに当たり、それが「暗号資産交換業」に該当する場合、内閣総理大臣の登録が必要となります(資金決済法63条の2)。
無登録業者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方が科される可能性があります(資金決済法107条6号。法人処罰規定あり(115条1項4号))。
そこで次に、登録の要否を分ける「暗号資産交換業」とは何か見ていきましょう。
暗号資産交換業の定義
「暗号資産交換業」とは、次のいずれかを業として行うことをいいます(資金決済法2条7項)。なお、①②を「暗号資産の交換等」といい、④を「暗号資産の管理」といいます。
② ①の行為の媒介(マッチング)、取次ぎ、代理
③ ①②の行為に関して、ユーザーの金銭の管理をすること。
④ 他人のために暗号資産の管理をすること(他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
①は、典型的には、いわゆる販売所において、業者がユーザーの相手方となって行う暗号資産の売買や他の暗号資産との交換が該当します。
また、暗号資産を発行して資金調達を行うICOも、業として暗号資産を売却・他の暗号資産と交換する行為として「暗号資産交換業」に該当します。
ただし、登録済の暗号資産交換業者が発行者の依頼に基づいて当該暗号資産の販売を行い、発行者がその販売を全く行わない場合(いわゆるIEOと呼ばれるスキーム)には、発行者の行為は基本的には暗号資産交換業に該当しないと考えられています(事務ガイドラインp56参照)。
②は、典型的には、いわゆる交換所の板取引において、業者が行う、買注文を出したユーザーと売注文を出したユーザーとのマッチングが該当します。
③は、典型的には、交換所を運営する業者や、いわゆるカストディ業者・ウォレット業者が、ユーザーから暗号資産を預かる場合が該当します。
③の規制の趣旨・背景は、「サイバー攻撃による顧客の仮想通貨の流出リスク、業者の破綻リスク、マネーロンダリング・テロ資金供与のリスク等、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると考えられること」「2018 年 10 月に、仮想通貨カストディ業務を行う業者についても、マネーロンダリング・テロ資金供与規制の対象にすることを各国に求める旨の改訂 FATF 勧告が採択されたこと」が挙げられます(2018年12月21日付仮想通貨交換業等に関する研究会報告書)。
そうすると、業者がハッキングされた場合や業者自らユーザーを裏切ったりマネーローンダリングをしたりしようとする場合でも、業者の手持ちの情報等だけでは、暗号資産を移動させることができなければ、規制の必要がなさそうですね。
具体的には、業者が、ユーザーの暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合等には、主体的にユーザーの暗号資産の移転を行い得る状態になく、基本的には、③「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられています。
他にも、金融庁・2020年4月3日付「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」別紙1には、非該当になり得る様々な例が記載されています。
主な登録要件
財務条件
暗号資産交換業者が、その財産的基礎が脆弱であって破産してしまい、預かったお金や暗号資産をユーザーに返せなかったり、他の債権者にお金の支払い・暗号資産の引渡しができなかったりしたら、多くの人たちに迷惑が掛かってしまいますよね。
そこで、暗号資産の登録に当たっては、暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる財産的基礎を有することが必要となります。
具体的には、資本金の額が1000万円以上であること、純資産額がマイナスではないことが必要となります(資金決済法63条の5第1項3号、暗号資産交換業者に関する内閣府令9条1項)。
体制の整備
暗号資産交換業者は、ユーザーからお金や暗号資産を預かるほか、金融サービスの提供を行い金融インフラの一翼を担うので、暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備、資金決済法等の規定を遵守するために必要な体制の整備が求められます(資金決済法63条の5第1項4号)。
なお、コンプライアンスの観点等から兼務を避けるべき業務やポジションがあるので注意が必要です。
行為規制
暗号資産交換業者に対する主な規制として、以下のようなものがあります。
取扱暗号資産の届出等
暗号資産の中には、ユーザー保護、マネーローンダリング・テロ資金供与防止等の公益性の観点から、暗号資産交換業者が取り扱うことが必ずしも適切でないものもあり得ます。
そこで、暗号資産交換業者は、登録申請書に取り扱う暗号資産の名称の記載が求められます。また、新たに取扱暗号資産を追加する等、取扱暗号資産の変更について事前に金融庁に届出をする必要があります(資金決済法63条の3第1項7号、63条の6第1項、112条2号、114条1号)。
また、「暗号資産の特性及び自己の業務体制に照らして、利用者の保護又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる暗号資産を取り扱わないために必要な措置」を講じる義務が課されます(暗号資産交換業者に関する内閣府令23条1項5号)。
利用者財産の管理(分別管理)
利用者の金銭の分別管理
暗号資産交換業者が、ユーザーから預かったお金を流用したり破産したりして、これを返金できなくなったら、ユーザーは損害を被ってしまいますよね。
そこで、暗号資産交換業者は、ユーザーのお金を、自分のお金と分別して管理し、信託会社等に信託することが義務付けられています(資金決済法63条の11第1項、暗号資産交換業者に関する内閣府令26条)。
利用者の暗号資産の分別管理等
同様に、暗号資産交換業者が、ユーザーから預かった暗号資産を、流用したりハッキングされて流出させたりして、これを返還できなくなったら、ユーザーは損害を被ってしまいます。
そこで、暗号資産交換業者は、ユーザーの暗号資産を自分の暗号資産と分別して管理することが義務付けられています(資金決済法63条の11第2項前段、暗号資産交換業者に関する内閣府令27条1項)。
このとき、例えば、暗号資産交換業者が自分で管理する暗号資産については、ユーザーの暗号資産と自分の暗号資産とを明確に区分し、かつ、ユーザーの暗号資産については、どのユーザーの暗号資産であるかが直ちに判別できる状態で管理しなければなりません(同府令27条1項1号)。
そして、不正流出防止等、ユーザー保護のため、暗号資産交換業者は、秘密鍵等、ユーザーの暗号資産を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器、メディア、紙等に記録する等して管理する必要があります(いわゆるコールド・ウォレット。資金決済法63条の11第2項後段、暗号資産交換業者に関する内閣府令27条3項。なお、インターネットに接続された状態で秘密鍵を保管するタイプのものはホット・ウォレットといわれ、通常、コールド・ウォレットに比してハッキング等のリスクが高いです。)。
ただし、ユーザーの利便性確保・サービスの円滑な遂行のため、その状況に照らして必要最小限度の暗号資産をホット・ウォレットで管理することができます(それでもユーザーの暗号資産の5%が上限)(資金決済法63条2項後段かっこ書き、暗号資産交換業者に関する内閣府令27条2項)。
そしてこの場合でも、ホット・ウォレットで管理するユーザーの暗号資産と同種同量の自分の暗号資産(履行保証暗号資産)を、他の自分の暗号資産と分別して、コールド・ウォレットで管理する必要があります(資金決済法63条の11の2、暗号資産交換業者に関する内閣府令29条)。
分別管理義務違反等に対する罰則
ユーザーのお金を分別管理しなかったり信託しなかったりした場合、ユーザーの暗号資産を分別管理しなかった場合、履行保証暗号資産を保有しなかったり他の自分の暗号資産と分別管理しなかったりした場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金、または両方が科される可能性があります(資金決済法108条3号、4号)。
公認会計士・監査法人による監査
暗号資産交換業者は、上記のユーザーの財産や履行保証暗号資産の管理の状況について、定期的に、公認会計士または監査法人の監査を受ける義務があります(資金決済法63条の11第3項、63条の11の2第2項)。
これにより暗号資産交換業者には高い監査費用の負担が生じます。
利用者保護措置
暗号資産交換業者は、暗号資産の性質に関する説明、手数料その他の契約の内容についての情報の提供等、ユーザー保護とサービスの適正・確実な遂行のために必要な措置を講じる義務があります(資金決済法63条の10、暗号資産交換業者に関する内閣府令21条、22条、23条)。
資金決済法上のその他の規制
広告規制(資金決済法63条の9の2)、契約締結をする際の虚偽表示や適合性原則に反する勧誘、暗号資産の相場を変動させる目的をもって暗号資産の売買をする行為、利用者の委託等に係る売買を成立させる前に、自分や第三者の利益を図ることを目的として、同一orより有利な価格・数量で暗号資産を売買する行為等を含む、詳細な禁止行為(同法63条の9の3、暗号資産交換業者に関する内閣府令20条)、紛争解決等に関する措置を講じる義務(資金決済法63条の12)等が定められています。
犯罪収益移転防止法に基づく措置
マネー・ローンダリング・テロ資金供与防止のため、アカウント作成、200万円を超える暗号資産の交換、10万円を超える暗号資産の移転の際の取引時確認義務(犯罪収益移転防止法4条1項)等が課されます。
なお、金融庁から、日本暗号資産取引業協会に対し、トラベルルール(暗号資産の移転に際し、その移転元・移転先に関する情報を取得し、移転先が利用する暗号資産交換業者に通知することを求める規制)の実施が要請されています(「暗号資産の移転に際しての移転元・移転先情報の通知等(トラベルルール)について(要請)」)。
まとめ
以上をまとめると次のとおりです。
弊社では、いわゆる仮想通貨、電子マネー、ポイント等、クライアント企業において提供するサービスが「暗号資産」に該当するのか、自社のサービスは「暗号資産交換業」に該当するのか、これらを回避するスキームはないか等のご相談、「暗号資産交換業」の登録申請支援等、仮想通貨関連ビジネスのサポートに関する豊富な実務経験と実績を有し、また金融機関の勤務経験も有する弁護士が対応しております。仮想通貨関連ビジネスのリーガルチェックの必要性は高いですので、お気軽にご相談ください。
・前払式支払手段に該当する場合、通貨建資産に該当する場合、特定の者の間でしか移転できない等の制限が設けられていて「不特定性」の要件を満たさない場合、決済手段等の経済的機能を欠く場合、電子記録移転権利に該当する場合は、「暗号資産」から除外される。もっとも、他の規制が及ぶ場合がある。
・「暗号資産交換業」の該当する場合、内閣総理大臣の登録が必要となる。
・登録のためには、一定の財務条件や体制整備等の登録要件を満たす必要がある。
・暗号資産交換業者には、取扱暗号資産の届出等、利用者財産の分別管理等、利用者保護措置等、犯罪収益移転防止法に基づく措置が義務付けられる。