フィンテック:前払式支払手段と規制回避のポイント5つを金融業界経験弁護士が解説

はじめに

近年、FinTech(フィンテック。金融×テクノロジー)という言葉を耳にすることが増えましたね。

FinTech(フィンテック)は、キャッシュレス決済、送金サービス、投資・資産運用・ロボアドバイザー、クラウドファンディング、ソーシャルレンディング、融資、暗号資産、個人財務管理(PFM)等を幅広く含みますが、中でもキャッシュレス決済、送金サービスは私たちの生活に広く浸透して身近なサービスとなっていますね。

例えば、SuicaやPASMO、決済アプリ、送金アプリ、オンラインサービスの電子マネー、ゲーム内通貨、プラットフォームのユーザー間決済、投げ銭サービス等については、利用することも多いのではないでしょうか。

ところで、このようなキャッシュレス決済サービスや送金サービスには、資金決済法の規制が及ぶことが多いです。

でも、資金決済法は、政省令も含め、条文が複雑でわかりにくいですよね。「読むだけでも多大な精神力が必要?」と思ってしまいませんか?

また、資金決済法は、プリペイドサービス、送金サービス、暗号資産の売買・交換等の複数のサービス類型に対する規制を定めているという点でも複雑です。そして、リリースを予定するサービスのリーガルスキームを設計するに当たり、これらのうち1つの類型の規制を回避しようとしたら他の類型の規制が及ぶこともあるという点でも複雑です。

しかし、資金決済法のどのサービス類型の規制が及ぶのか及ばないのか、規制が及ぶとしても、どんなときにどんな義務が発生し、どんなときには発生しないのか等を把握しておかないと、気付かないうちに資金決済法に違反し、行政処分や刑罰等の制裁の対象となるおそれがあります。
そのような場合には、役職員の手間と時間等といった対応コストの発生、弁護士費用や罰金等の金銭的損失の発生、またレピュテーション低下等を、もたらすおそれがあります。

そして、このようなリスクを回避、低減するためには、資金決済法の規制が及ぶのかどうか等を、同法の定めるサービス類型ごとに事前確認する必要があります。このような確認は、一般に気も使いますし大変ですよね。

しかし、ポイントを正しく押さえておくことで、資金決済法違反リスクの回避低減策、規制対応コストの低減策を効率的に検討しえます。

そこで、この記事では、資金決済法の定めるサービス類型の1つである前払式支払手段の規制概要と、規制回避のための5つのポイントを解説します。

決済サービス等に関わる企業の方が、検討中のサービスに前払式支払手段の規制が及ぶかどうか等の確認をし、適法なサービスの設計をするお役に立てば幸いです。

 

(2022年1月24日追記)

資金移動業規制については「フィンテック:送金サービスへの資金移動業規制を金融業界経験弁護士が解説」を、

暗号資産交換業規制については「フィンテック:仮想通貨やNFTへの適用が問題となる暗号資産交換業規制とは?金融業界経験弁護士が解説」をご覧ください。

前払式支払手段とは何か?

「前払式支払手段」該当性は、(トートロジカルな言い方ですが)前払式支払手段の規制がそもそも及ぶかどうかを左右します。

「前払式支払手段」の定義

「前払式支払手段」は、かみ砕いていうと、次の要件を満たすものをいいます(資金決済法3条1項)。

①  金額等の財産的価値が、カード等に記載され、またはコンピュータ上に記録されること
② ①の財産的価値に応じる対価を得て発行されること
③ 発行者・発行者が指定する者から物を購入したりサービス提供を受けたりする場合に、代金の支払いに使用することができるもの

例えば、電子マネーのSuica、PASMO、PayPay社のPayPayマネーライト、セイコーマート社のペコママネー、スターバックス コーヒー ジャパン社のスターバックスカード、「ツムツム」の「ルビー」、「ドラゴンクエストウォーク」の「ジェム」、各種商品券、テレホンカード等が該当します。

リリースするサービス等が「前払式支払手段」を発行するものである場合、前払式支払手段の規制が及びうることになります。

アプリゲームのアイテムが「前払式支払手段」に該当した例―「LINE POP」の「宝箱の鍵」―(補足1)

「前払式支払手段」に該当するかどうかは、一見すると明確にも思えますが、「こんなものも該当するのか!」と思ってしまうケースもあります。

過去には、関東財務局が、LINE社に対し立入検査を行い、ゲーム「LINE POP」内の「宝箱の鍵」というアイテム(ゲーム内通貨「ルビー」で購入することができるアイテムであり、ゲームを有利に進めることができる様々なアイテムが入った「宝箱」を開けることができる。)を、「前払式支払手段」と認定したことがあります。その結果、同社は、120億円以上の供託金が必要となった等とみられています。
参考・ITmedia NEWS「LINE POP『宝箱の鍵』は『支払い手段』 関東財務局が認定」

このように、いかにも「お金の代わりです。」という感じのする名称や見た目でなくても、ゲームアイテムであっても、実質的に「前払式支払手段」の要件に該当するものもあるので、事業者としては注意が必要です。

私の経験でも、ゲーム内通貨とは別に、「前払式支払手段」に該当する可能性の高いゲームアイテムの存在に気付き、ゲーム会社に対して詳しくヒアリング等を行ったことがあります。

ブロックチェーン、NFTについて(補足2)

ブロックチェーン技術(分散台帳技術)やNFT(非代替性トークン)を利用したサービス等について、法規制はないとか、資金決済法の「暗号資産」の規制以外に規制はないと誤解されている方が、ときどきいらっしゃいます。しかし、上記の要件に該当すれば「前払式支払手段」の規制は及び得ますので、注意が必要です。

例えば、ビットコインは、「ブロックチェーン技術を使っている」からではなく、「代金の支払いのために使用する相手が、発行者と加盟店に限定されていない(ビットコインを作った人とは無関係のヤマダ電機で買い物ができる等)」から、「前払式支払手段」非該当となります。

適用除外

「前払式支払手段」を発行するとしても、法定された一定の前払式支払手段には、その規制(資金決済法2章)の規定は適用されません(同法4条)。
このような適用除外に該当するか?も、前払式支払手段の規制が及ぶかどうかを決するポイントの1つです。

例えば、使用期間が6か月以内の「前払式支払手段」が挙げられます(資金決済法4条2項、資金決済法施行令4条2項)。これは、適用除外に該当する前払式支払手段として、広く見られる類型です。

この類型が適用除外とされた趣旨は、有効期間が短期であり通常早期に使用されることから、ユーザーのリスクが比較的小さいこと等にあります。早々に使用され未使用残額が大きくなりにくいため、発行者が破産して前払式支払手段が無価値になっても、ユーザーの金銭的損失は比較的小さく済むと見込まれるね、ということです。

このように前払式支払手段を発行するとしても、(ユーザーの利便性等を維持しつつ)有効期間を6か月以内とすることにより規制の適用除外とならないかを検討することは、資金決済法違反の回避、規制対応コストの回避という観点から有益だと思われます。シンプルで明確な基準ですから、これにより適用除外になると、かなりホッとするのではないでしょうか?

自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段

適用除外に該当せず前払式支払手段の規制が及ぶとした場合、次に、これが「自家型前払式支払手段」(資金決済法3条4項)と「第三者型前払式支払手段」(同条5項)のどちらに該当するかを検討する必要があります。前者であれば届出制、後者であれば事前登録制というように、参入規制が異なるからです。

自家型前払式支払手段

「自家型前払式支払手段」は、発行者や親子会社等の密接関係者から商品を購入したりサービス提供を受けたりする場合に限り使用することができる前払式支払手段のことをいいます。

例えば、そのゲーム内でしか使用できないゲーム内通貨は、一般に、自家型前払式支払手段に該当することが多いと思われます。

そして、自家型前払式支払手段は、次に説明する第三者型前払式支払手段に比べて、規制がとても軽いです。

自家型前払式支払手段は、3月末または9月末(基準日。資金決済法3条2項)の未使用残高が1000万円(資金決済法14条1項、資金決済法施行令6条)を超えない限り、資金決済法の規制が及びません(資金決済法5条等参照)。

他方、基準日の未使用残高が1000万円を超えた場合は、内閣総理大臣に届出をしなければなりません。また、前払式支払手段発行者として、後述する供託義務その他の行為規制が課されます。

なお、届出の期限は、基準日の翌日から起算して2か月(前払式支払手段に関する内閣府令9条)です。

そして、この届出書を提出しない者(発行会社の役職員等)は、6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはこれらの両方が科される可能性があります(資金決済法112条1号)。
また、発行会社である法人には、50万円以下の罰金が科される可能性があります(資金決済法115条1項4号)。

ですので、届出をすることはもちろんですが、期限内に届出をすることができるよう、1000万円を超えそうなときは早めに準備等を始めることをおすすめします。

このような届出制や行為規制を回避することを望む場合には、基準日の未使用残高が1000万円を超えないよう、前払式支払手段の使用を促すキャンペーン等の施策を行うことが考えられます。

第三者型前払式支払手段

「第三者型前払式支払手段」は、発行者や密接関係者以外の加盟店等から商品を購入したりサービス提供を受けたりする場合に使用することができる前払式支払手段をいいます(資金決済法3条5項)。

例えば、JR東日本が発行するSuicaは、密接関係者ではないコンビニでの買い物にも使用できるので、第三者型前払式支払手段に該当します。

そして、第三者型前払式支払手段は、先の自家型前払式支払手段に比べて、規制が重いです。具体的には事前登録制となっています(資金決済法7条)。

これは、自家型前払式支払手段に比べて決済インフラとしての性格を有し金融機能が高いこと、発行者が破産した場合に、加盟店に対して、使用された前払式支払手段相当分の現金を支払えない等、社会的影響も大きいことから、事前登録制とされています(なお、ユーザーについては、自家型でも第三者型でも、前払式支払手段が無価値をなってしまうリスクがあります。)。

加えて、登録のためには、純資産額が原則として1億円(資金決済法10条1項2号イ、資金決済法施行令5条。利用可能地域の範囲が一の市町村である場合等の例外あり。)以上であることが必要等、登録のためのハードルは一般に高いです。

そして、無登録で第三者型前払式支払手段の発行業務を行った者(発行会社の役職員等)は、3年以上の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方が科される可能性があります(資金決済法107条1号)。
また、発行会社である法人には、300万円以下の罰金が科される可能性があります(資金決済法115条1項4号)。

ですので、生まれたてのスタートアップ企業等、登録が難しそうな場合には、第三者型前払式支払手段以外のスキームを利用したサービス、すなわち自家型前払式支払手段を利用したサービスや前払式支払手段以外のスキームを利用したサービスに変更できないか検討することも、現実的な選択肢となりえます。

前払式支払手段発行者に対する行為規制

届出をした自家型発行者と登録を受けた第三者型発行者は、「前払式支払手段発行者」(資金決済法2条1項)として、行為規制を受けます。
主なものは次のとおりです。

発行保証金の供託義務

前払式支払手段発行者は、基準日未使用残高が1000万円を超えるときは、その基準日未使用残高の2分の1以上の額(要供託額)の発行保証金を供託しなければなりません(資金決済法14条)。

供託に代えて、発行保証金保全契約(銀行等が代わりに供託するもの。発行者は、キャッシュアウトを回避できますが、手数料を負担することになります。)、発行保証金信託契約(信託財産の額について供託しないことができ、信託財産を資産運用できますが、信託財産を拠出しなければなりません。)によることもできます(資金決済法15条、16条)。

これは、利用者保護のため、発行者が破産等する場合に備えて義務付けられているものです。

しかしながら、供託も負担になりえます。特に、生まれて間もないスタートアップとっては負担が大きいものと思われます。

利用者への情報提供義務(いわゆる資金決済法に基づく表示)

利用者保護のため、前払式支払手段発行者は、前払式支払手段を発行する場合には、その商号等、有効期間、苦情相談窓口の連絡先等、法定事項に関する情報をユーザーに提供しなければなりません(資金決済法13条)。

不適切利用防止措置

近年、例えばプラットフォーム上でのユーザー間決済の際等に、前払式支払手段の残高の譲渡を行われることがあります(このような譲渡は、商品券をプレゼントしたりチケット買取販売店で売買したりできるのと同様(ただし、古物営業法の規制は別論)、資金決済法により規制されていません。)。

このような譲渡において、不適切な利用(マネーローンダリング等を念頭に置いていると推測されます。)を防止する観点から、前払式支払手段(ユーザーの指図を受けて、その未使用残高を電子情報処理組織を用いる方法等により他のユーザーに移転することができるものに限ります。)を発行する場合、移転することができる未使用残高の上限の設定、未使用残高の移転の状況を監視するための体制の整備等、不適切な利用を防止するための適切な措置を講じることが義務付けられています(前払式支払手段に関する内閣府令23条の3第1号)。

払戻禁止

前払式支払手段発行者は、原則として、ユーザーに対して前払式支払手段の払戻しを行うことが禁止されます(資金決済法20条5項)。

仮に、資金決済法に違反して払戻しを行うと、次の規制に違反する可能性があるので注意が必要です。

  • 出資法の預り金規制(銀行等以外の者が預金の受入れ等の預り金をすることを禁止する規制。違反した法人の役職員には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方、法人には300万円以下の罰金が科される可能性があります。出資法2条、8条3項1号、9条1項3号)
  • 銀行法(無免許の者が、送金ビジネス(振込等)その他の銀行業を行うことを禁止。違反した法人の役職員には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方、法人には300万円以下の罰金が科される可能性があります。銀行法4条1項、61条1号、64条1項4号)

規制回避のポイントーまとめに代えてー

以上を踏まえると、前払式支払手段の規制違反の回避低減、規制対応コストの低減の観点からは、次の事項が規制回避のポイントになります。

前払式支払手段該当性におけるポイント(ポイント①)

まず、「前払式支払手段」の要件を1つでも満たさなければ、前払式支払手段の規制は及びません。
もっとも、他の規制が及ばないか確認する必要がある場合もあるので注意しましょう。

適用除外におけるポイント(ポイント②)

例えば、有効期限を6か月以内とする等により適用除外とならないか、サービス内容の検討、見直しをすることが考えられます。

もっとも、スマホアプリをApp Storeでリリースする場合等、有効期限を設けることができない場合があるので、注意が必要です。

例えば、「App Store Reviewガイドライン」の「3.1.1 App内課金」には、
「App内課金で購入されたクレジットやゲーム内通貨に有効期限を設定することはできません。」
と明記されています。

第三者型前払式支払手段の登録のハードルが高い場合は、第三者型前払式支払手段以外のスキームの利用を検討(ポイント③)

検討中のサービスが第三者型前払式支払手段を発行するものである場合、事前登録のハードルが高いときは、第三者型前払式支払手段以外のスキームの利用することができないか検討することが現実的である場合があります。

未使用残高が1000万円を超えないようにするための施策

前払式支払手段の使用を促す施策(ポイント④)

例えば、キャンペーン等により、前払式支払手段の消費を促す施策を講じることが考えられます。

もっとも、このような施策を講じても、基準日未使用残高が1000万円を超えてしまう事態は生じうるので注意が必要です。

有償発行分と無償発行分の区別(ポイント⑤)

基準日未使用残高の算定に当たっては、原則として、無償でプレゼントした前払式支払手段の未使用残高も計上する必要があります。

もっとも、このような無償発行分については、「情報の提供内容やデザインによって、対価を得て発行されたものと無償で発行されたものを明確に区別することが可能であること」等、一定の要件を満たした場合には、その無償発行分を未使用残高に計上しないことができます。

そして、前払式支払手段が使用される際には、無償発行分よりも有償発行分が優先して消費されるものとすることが考えられます。

これにより、基準日未使用残高を、できる限り、低減することが考えられます。
そして、いざ供託をしなければならなくなったとしても、その要供託額を低減することにも資するでしょう。

これを裏から表現すれば、有償発行分と無償発行分を区別せず、しかも無償発行分を気前よくプレゼントすると、自家型前払式支払手段の届出義務発生や、(自家型も第三者型も)供託義務の発生、要供託額の上昇を招くことになります。

さいごに

この記事では、資金決済法の定めるサービス類型の1つである前払式支払手段の規制概要と、規制回避のための5つのポイントを解説してきました。

検討中のサービスに前払式支払手段の規制が及ぶかどうか等の確認をし、適法なサービスの設計をするお役に立てば幸いです。

弊社では、いわゆるポイント、電子マネー等、クライアント企業において提供するサービスが「前払式支払手段」に該当するのか、これを回避するスキームはないか等のご相談、自家型前払式支払手段の届出支援等、プリペイドサービスのサポートに関する豊富な実務経験と実績を有し、また金融機関の勤務経験も有する弁護士が対応しています。プリペイドサービスのリーガルチェックの必要性は高いですので、お気軽にご相談ください。

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